月に眠るオランウータン
赤い色をしたジュースを飲み干して、 きみにたずねるのです。
「なんで笑ってるの?」
「グラスの底にキノコが生えているから。」と、きみはクスクス笑うのです。
閉店の時刻を過ぎても、 店主は何も言いません。 ぼくはグラスの底を見つめ、 きみはクスクスと笑い、 店主は言葉なく待つのです。
店の隅においてあるラジオからニュースが流れます。
「輸送中のオランウータンが、 逃走しました。 近隣の住民はじゅうぶん注意してください。 オランウータンは軽々と人間の首をへし折る腕力を持っています。」
屋根のないその店からは、 月が煌々と光っているのが見えるのです。
オランウータンも同じ月を見ているはずです。
そして、オランウータンもいずれ眠りにつくでしょう。
野生のオランウータンを追いかけて―マレーシアに生きる世界最大の樹上生活者 (フィールドの生物学)
- 作者: 金森朝子
- 出版社/メーカー: 東海大学出版会
- 発売日: 2013/08
- メディア: 単行本
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月白貉