ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn)が、自らの感覚で古き日本を歩きまわって独自の感性で見聞を広めたように、遠く故郷を離れてあてどなき夢想の旅を続けるぼくが、むじなと、そしてラフカディオと一緒に、見たり聞いたり匂ったり触ったりした、ぼくと、むじなと、ラフカディオの見聞録です。

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アクイロヌメリタケ(Hygrocybe unguinosa)- 松江城マッシュルームマップ -

「灰汁が強い」という言葉がある。

 

灰汁とはもともと灰を水に浸して上澄みをすくった液体のことで、洗剤や染料あるいは食品のアク抜きなどとして用いられてきたものである。

 

そして、この灰汁を使って食品自体がもつ強くてクセのある味を処理するようになったことから、それが転じて食品の持つ嫌な味やクセそのものもアクと呼ぶようになった。

 

そのアクを人間の性質や言動などになぞらえて、独特の個性をもつ人々のことを「あの人は灰汁が強い」などという言い方をする。ニュアンスとしてどちらかとえば、あまりよろしくないイメージの言葉ではあるが、人間にしても食べ物にしてもアクというものはそこそこ強いくらいのほうがぼくは好みである。

 

ちなみに食品に関して言うと、アクはありすぎても、逆になさすぎても、味はよろしくないといわれている。つまりちょうどよいアクを如何にうまく残すかが、料理の出来不出来を左右するということだ。

 

あるいは人間も。

 

というわけで、今回のハンティングきのこは「アクイロヌメリタケ」である。

 

松江城マッシュルームマップ - アクイロヌメリタケ -

 

ヌメリガサ科アカヤマタケ属のきのこで、学名を「Hygrocybe unguinosa」、漢字で書くと「灰汁色滑茸」である。

 

カサの色は灰褐色から黒色で、表面を粘液に包まれている。苔の海原の中でキラキラと光る黒色のカサは、なんとも雅で美しい。灰汁色という言葉は日常的にはほとんど使うことはないが、古い和名の色の表現をもっともっと日常的に活用すれば、おそらく生き方が、いまよりずっと豊かになるのではなかろうか。

 

さて話を灰汁に戻すと、数年前に観たテレビの料理番組でゴボウの話をしていた。どこぞの料理研究家だか食品のプロだかが、

 

「ゴボウはアクに栄養があるので、その表面の泥も落とさないで、そのまま汁にして食べるのがいちばんです!」

 

と言って、幼い子供が砂場のママゴトで作るような泥汁を作って食べていたことを思い出した。確かに野菜のアクには栄養があるという話は聞いたことがあるが、何事にも限度というものがあるよなあと、観ていてため息をついた。アシスタントの女性は、

 

「わあ、栄養たっぷりなお味ですね!」

 

と言っていたが、嘘をつけ。あれはただの泥汁の味だと思う。

 

それにしてもまあ、あの番組に出演していた料理人こそが、まさに灰汁の強い人だったのであろう。

 

 

 

板前さんの あく取り名人 【あく取り】 27538

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月白貉