同型の憧憬 - 其の壱
小学校を卒業してからもう三十年近い年月が経つ。
ぼくは当時の田舎の小学生にはめずらしく、地元の中学校ではなく東京にある私立の中学校に進んだ。
その受験勉強のために、小学六年生の時の一年間は毎日毎日進学塾に通わされた。夏休みも冬休みも、ぼくには他の友だちみたいに休みはなく、朝から晩まで塾で過ごした。受験のための勉強は小学校で教わる内容とはまったく違っていたので、それを一年間でなんとか身につけなければならなかったわけだ。中学の受験はたいていは国語と算数の二科目の試験だったので、塾での授業もその二科目を選択していた。学校によっては三科目とか四科目の試験を出すところもあるらしく、塾で同じクラスだったある男の子は他の教科も勉強していた。
学校では習わない文学史や、学校では使わない計算式なんかを覚えることは、ぼくにとってはちょっとしたゲーム感覚でなかなか楽しかったし、時々行われる全国模試で順位が上がってゆくのが目に見えてくると、やはりそれもドラクエでレベルがあがって強くなってゆくみたいな感覚があって、すごく充実感があった。でもぼく自身は私立の中学校にゆきたいとは全然思っていなかった。どちらかと言えば、地元の中学校にゆきたかった。
その理由はといえば、もちろん地元の仲のよい友だちはみんな地元の中学校にゆくからだし、実はぼくには当時すごく好きな女の子がいて、受験なんかせずに決められた地区割りで地元の中学校にゆけば、その女の子と同じ中学校になるはずだったからだ。
だから東京の中学校なんかには正直ゆきたくはなかったのだ。
けれど結局、滑り止めとして受けたあるひとつの学校になんとか合格し、その中学校にゆくことになった。自宅から各種交通機関を乗り継いで二時間以上もかかるその中学校に。往復で考えたら、待ち時間やなんやかんやも含めると五時間もの時間が通学にかかるのだ、実に五時間である。
まあそんなこんなで、中学時代の三年間(附属中学だったので実際には六年間)、ぼくは毎日毎日通学の行き帰りに五時間もかける生活を送っていた。
朝は五時台のバスに乗り、帰ってくるとどんなに急いでも夕方の五時を過ぎていた。冬の朝なんかは、家を出る時間にはまだ夜空に星が瞬いていた。
そんなふうな生活をしていたから、小学校の時の地元の友だちには会うこともなくなり、もちろんその好きだった女の子にもそれ以来、会いも見かけもしないまま、もう三十年近くの長い年月が経ってしまった。大学に入ってからは一人で東京に住みはじめて、それから自分の人生の半分くらいを東京で暮らしていたし、いまでは故郷を遠く離れた土地で暮らしている。だから、あの時好きだった女の子にはもう会うことなんかないんじゃないだろうかと思うのだが、実はその女の子がぼくの夢にはよく出てくるのだ。
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月白貉