ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn)が、自らの感覚で古き日本を歩きまわって独自の感性で見聞を広めたように、遠く故郷を離れてあてどなき夢想の旅を続けるぼくが、むじなと、そしてラフカディオと一緒に、見たり聞いたり匂ったり触ったりした、ぼくと、むじなと、ラフカディオの見聞録です。

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ギロチン松 - 松江百景

松江城を囲むお堀の一角に、ひときわ目立つ独特の松の木が生えている。

 

堀の水面に湾曲するように頭を垂れている松の幹が遊歩道を跨いでトンネルのようになっているのだが、

 

「わ〜い、松の木のトンネルだ〜!」などと言って迂闊に走りぬけようとすると、そのトンネルの天井部分から飛び出た恐るべき瘤で、頭をかち割られることになる。

 

先日も観光客らしい家族(父と母と娘)が、松のトンネルを潜り抜ける際に、会話に夢中になってなかなかのスピートで歩き抜けたため、先頭をゆくお父さんがまんまとトラップにかかり、頭上に飛び出た瘤に劇的に頭をぶつけて、昭和のギャグ漫画ばりに目玉が飛び出している光景を目撃したばかりである。

 

あの場所で観光客が記念写真を撮っている光景もよく見かけるので、住民にもよく知られたスポットだと思うのだが、

 

実はあの松に恐ろしい噂が存在することをご存知であろうか。

 

その噂というのが、日が暮れてからあの松の木の瘤に頭をぶつけた人は、一週間後に死ぬという怪奇な噂である。

 

これはあるアマチュアの地誌研究家の方にお聞きした話であるが、ある文献によると、江戸の中期頃にちょうどあの松の場所で、何某とかいう侍が首を斬られて死んでいたという出来事があったと記されているらしい。ただその原因が、何かのいざこざなのか、それとも物取や辻斬なのか、そのことの詳細は書かれていないらしい。ただそれ以来、日が落ちてからあの松の下をくぐり抜けると、七日の後に首にまつわる怪我やら事故やらで死に至るという噂が立ち始め、実際に死ぬ者が出ていたという。

 

そしてあの松にある瘤であるが、その当時には瘤に関しての記述はなく、ただ通り抜けると死に至るということが記されているのだが、近年、大正初期くらいのある文献によると、日が暮れてからあの松のトンネルを通り抜ける際に、「その頭上の瘤に頭をぶつけると」、七日の後に首にまつわることで死に至るという噂に変化しているというのである。

 

そのため、昔からあの松のことが「首切松」と呼ばれて恐れられていたという。

 

ちなみにこの話は、おそらくいまでは年配の方でも殆どの人が知らない話だそうであるが、実はこの話をかの小泉八雲ことラフカディオ・ハーンは知っていて、彼はそのことを友人に手紙で送っているという。その手紙でハーンはその松のことを「ギロチン松」と書いていたそうである。

 

そして近年になってからも実はあの場所にまつわる似たようなことが起こっていたらしいのだが、その過去の噂も含め、あまり縁起がよろしくないとのことで、ある程度意図的に隠されている話だということである。

 

というわけで今回の松江百景、ハーンの命名をお借りして「ギロチン松」である。

 

松江百景 - ギロチン松 -

 

ぼくもときどきこの場所を通ることがあるし、昼間にも日暮れにも何度かそのトンネルをくぐり抜けたことはある。昼間も、もちろん日暮れにも、まだ一度も瘤には頭をぶつけたことはないが、その話を知ってしまったのでいまでは絶対に潜り抜けない。

 

ぼくは背が小さいのでちょっとしゃがむくらいで瘤はなんなくかわせるのだが・・・こわいもの。

 

というわけで、これから夏本番、肝試しのメインイベントとして、ギロチン松のトンネルを日暮れに潜り抜けて、もれなく瘤に頭をぶつけてみてはいかがだろうか、ひひひ。

 

 

 

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月白貉