ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn)が、自らの感覚で古き日本を歩きまわって独自の感性で見聞を広めたように、遠く故郷を離れてあてどなき夢想の旅を続けるぼくが、むじなと、そしてラフカディオと一緒に、見たり聞いたり匂ったり触ったりした、ぼくと、むじなと、ラフカディオの見聞録です。

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玉造要害山の大天狗(前編)

玉造温泉に足を運んだ際に訪れた玉作湯神社、

 

延喜式』および『出雲国風土記』に記載のある古社であるとの記述があるが、創建時期は不明だとのことである。

 

延喜式 (日本歴史叢書)

延喜式 (日本歴史叢書)

 
出雲国風土記 (講談社学術文庫)

出雲国風土記 (講談社学術文庫)

 

 

ちなみに玉造温泉までやって来たのは温泉につかるためではなく、玉作湯神社への参拝が目的でもなく、どんな場所なのか散策してみようと思ったからである。

 

さて、この神社に足を踏み入れてまず気になったのが、ある立て札である。

 

どうやら神社の裏山にはかつて玉造要害山城という城があったらしい。

 

いまでもその遺構が残っているらしく、「玉造要害山城跡 →」という立て札が裏山へ向かう道沿いに立てられている。そしてもうひとつ、なにやら怪しげな立て札がある。

 

「天狗 →」とだけ書かれている謎めいた案内の立て札である。

 

むむむ、天狗とな、これは天狗に目がないぼくとしては、とにもかくにも行ってみない手はないということで、神社への参拝もそこそこにさっそくその立て札の示す方向へと歩を進めることにした。

 

ここでちょっと話がそれるのだが、その山のことについて少しだけ触れておこう。玉造要害山城は、湯秀貞によって築かれた山城で、尼子氏重臣として活躍した湯氏の一族が拠った城であるという。

 

さて、立て札に誘われて、まずは玉造要害山城跡を目指してなかなか急な山道を進んでゆくのだが、途中でどう考えても故意に道が塞がれている地点まで辿り着く。しかしずいぶん山を登ってきてしまったのでここで引き返すのも惜しいと思い、その故意に道を塞いでいる木々のバリケードのようなものをいっぽんいっぽん引き剥がして先に進むことにする。

 

頂上らしき場所に到着すると確かに土塁や井戸跡などいくつかの遺構が残っており、朽ちかけてはいるが説明の立て札なども立っている。しかしけっこうな具合で荒れ果てていて、ほとんど人が訪れていないことを予感させるものだったのだが、

 

時を同じくしてこの城跡に興味を持った人々がいたらしく、スーツ姿の二人の男性が後ろから山を登ってきていた。

 

「これが城跡かあ、何もないなあ。」と年配の方の男性。

 

「天狗はどこにあるんでしょうねえ?」ともう一人。

 

やはりあの「天狗 →」が気になっているらしく、共通の話題を持つ者としてはちょっと話しかけてみようかとも思ったのだが、「こんにちは。」という軽い挨拶にとどめておくことにしようという動物的感覚に従い、登山道での挨拶程度にしてその場を離れようと思いながら挨拶を交わし、頂上付近に立てられた案内図のような大味な地図に目を通していた。

 

するとその二人は、なんだかんだとか、ここが道かなあとか、いろいろ話をしながら、朽ち果てた道無き登山道を下山していったので、ぼくもその後を追うように下って行くことにしたのだが、おやおやちょっとまてよ、本来の目的である天狗のことをすっかり忘れていたぞと思い返す。けれどずいぶんと軽装備で来てしまったため、藪漕ぎをしながら山の中に分け入るのも難儀である。きょうはあきらめて下山しようと思いながら山道を下っていると、木々の影におかしな案内板を発見する。

 

烏天狗の立札

 

100円ショップで売られているであろうプラスチック製の布団たたきを支軸に作られたお手製の立札が、木々の影に隠れてまったく見えないように立てられている。

 

そしてそこにはなんと「烏天狗 →」と書かれている。

 

もちろんぼくは歓喜に絶叫するが、先を進む二人の姿はもう影も形もなくなっている、そしてあの二人はこの立札には気が付かずに行ってしまったらしい。せっかくあの荒れた山の中をスーツ姿で必死に歩きまわったのに残念なことだなあとは思ったが、人生に残念なことはつきものだ。

 

さてさてぼくはといえば気を取り直して「烏天狗 →」と書かれた立札に従い、再びまた山の中に分け入ることになるのだが、今度の道はずいぶんと整備されていて人が通っている形跡がある。

 

玉造要害山

 

そして等間隔で例の100円(正確には108円)布団たたきの立札が立てられている。そしてここにきて天狗の存在の謎が大いに広がる。「天狗」から「烏天狗」へと展開が急に変わっている予感がするが、はて最初にぼくの見た立て札は勝手な見間違いであったであろうか。

 

しばらく進むとなんと眼前に石の階段が見えてくる。

 

玉造要害山

 

ついに核心に迫ってまいりましたと、心のなかで呟きながら興奮気味にその石段を駆け上がると、ついにそこには御大が姿をあらわすことになる。

 

後半へ続く。

 

 

 

天狗はどこから来たか (あじあブックス)

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怪異の民俗学〈5〉天狗と山姥

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月白貉