写真と笑顔と発酵食品、ジャクソン・キヨシ・セガース監督『キムチ(Kimchi)』
去年2018年の一年間、ぼくは人生史上かつてなくたくさん、「すみません、写真撮ってもらえますか?」と、スナップ写真の撮影を見知らぬ人に頼まれた。
回数でいうなら、たぶん50回をゆうに超えている。
なぜそんな事になったのかはここでは語らない。あなたのご想像に委ねたい。
さて、誰かの写真を撮るとき、日本だと一般的に撮影者が「はい、チーズ!」って言うけれど、ぼくは基本的に言わない主義である。「はい、撮りますよ〜、いい顔してね〜」とか、無難な言葉を叫ぶことにしている。
あの「はい、チーズ!」はそもそも英語圏の「Say Cheese!」から来ているんだろうと思うけれど、撮影者だけが言うのではなくて撮られる側に「Cheese」と言わせるために言ってるんだよね。でもなぜか日本では、撮影者だけが絶叫してしまっているというおかしなシチュエーションがある。「チーズ」って言うときの口元きっかけでよい表情を作らせるはずが、日本人は撮影者の口から放たれる咆哮の如き「チーズ!」の残響音で鼓膜を揺るがせながら、自分は無言で、能面のような顔をして、撮影されてしまっているケースも多々見かける。
あと、「はい、チーズ!」の派生として「雪印!」とか「メグミルク!」というのもある。そもそも日本で「はい、チーズ」が普及した理由として、かつての雪印乳業のテレビCMでのセリフにこの「はい、チーズ」が使われたという背景があるらしい。
チーズを製造しているメーカーは他にもあるから、あえて「雪印」や「メグミルク」じゃなく、独自の「はい、チーズ」代用を探してみたいものだが、現在そのようなメーカー依存の派生語が浸透してしまっている裏には、何かしらの陰謀が隠されているに違いない。
「小岩井!」とか「よつ葉!」とかでもいいもんなあ。「ダノン!」とかでもいい。もっと言えば、もうチーズ関係なく好きな言葉でいいじゃないかと思う。「ダイソン!」とか「象印!」とか、あるいは「太宰!」とか「芥川!」とかもなかなかいい気がする。もはやなんだっていい。ただし先にも述べたが、どす黒い陰謀が渦巻いているため、スナップ写真撮影の際に「チーズ」、「雪印」、「メグミルク」以外の他メーカー、あるいは他社製品などの言葉を発すると、何らかの身の危険が生じる可能性があるので、そこは自己責任でお願いしたい。
ちなみにこの「Say Cheese!」は、第32代アメリカ合衆国大統領のフランクリン・デラノ・ルーズベルト(Franklin Delano Roosevelt)が発案者だという説があるらしいが、その真相は定かではないという。
さて、余談が加速する前に本題に移ろう。
今回取り上げる短編映画は、ジャクソン・キヨシ・セガース(Jackson Kiyoshi Segars)の監督による『キムチ(Kimchi)』である。
この監督名とタイトルを見る限りでも、人種が複雑に絡み合った作品であることが伺えると思う。さて、冒頭でなぜ「はい、チーズ」な話を展開したのかといえば、まあそれは本編を観ていただくのがよろしかろう。ただ勘がよい方はもうお気付きかもしれない。
出演者は、ケン・タケモト(Ken Takemoto)、アレクシス・リー(Alexis Rhee)、松崎悠希(Yuki Matsuzaki )、そしてジェニファー・キム(Jennifer Kim)。日系、韓国系、そして純日本人など、出演者は少ないものの多様な色を見せる俳優陣で構成されている。
ケン・タケモトは米国のTVシリーズなどを中心に活動する日系の俳優であるが、もともとはアートディレクションや衣装デザインなどを手がけていたようである。マイケル・ベイ(Michael Bay)監督による『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』(Transformers: Dark of the Moon)などにも出演している。
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松崎悠希は宮崎県出身のおそらく純日本人だが、現在は米国で俳優として活動している。クリント・イーストウッド(Clint Eastwood)監督による『硫黄島からの手紙』(Letters from Iwo Jima)、ロブ・マーシャル(Rob Marshall)監督による『パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉』(Pirates of the Caribbean: On Stranger Tides)など、メジャーな作品にも多く出演している。
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— Yuki Matsuzaki 松崎悠希 (@Yuki_Mats) 2019年2月11日
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ジェニファー・キムは、あまり詳しいことはわからないのだけれど、おそらくは米国でTVシリーズや短編を中心に活動する韓国系の女優である。
さて、最後のアレクシス・リー、彼女も米国で活動する韓国系の女優であるが、最近ではライアン・カイル・クーグラー(Ryan Kyle Coogler)監督の『ブラックパンサー』(Black Panther)や、他にもポール・ハギス(Paul Haggis)監督の『クラッシュ』(Crash)などに出演している。しかし、彼女の経歴で特出すべき点は、なんとあのSF映画の金字塔と言われるリドリー・スコット(Sir Ridley Scott)監督の代表作『ブレードランナー』(Blade Runner)にも出演を果たしているのである!
もちろん、ご存知の方も多いと思うが、もはや主役級と言っても過言ではないあの役、「強力わかもと」の広告に登場する芸者ガールである。SF映画史上、あれほどアイコニックな役もそうそうないに違いない。
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とまあそんなわけで、本作品自体のことにはあまり触れていないが、本編を取り上げておくので、興味のある方はそちらを御覧いただきたい。なかなか余韻深き作品であり、ぼくは四回ほど鑑賞したよ。