年末の怪談
アオイが息を切らして帰ってきた。彼女が息を切らして帰ってきたことなど、この一年で一度もない。
「ねえ!」
「どっ、どうしたの?」
「まだっ、年明けてないよねっ?」
「まだ?ああ、まだね、どうしたの?」
「あそこの稲荷神社に、変なお面をかぶった人だかりが出来てた・・・。」
「はあ・・・、お面を、それで・・・?」
「まだ初詣には早いよね?」
「若干早いけれど・・・、待ちきれないんじゃないの?」
「血だらけの人間を・・・、担いでた・・・、手足が千切れてて、内蔵とか出ちゃってた・・・。」
「えっ?」
「お面をかぶった人たちが、血だらけの人間を担いで、騒いでた・・・、警察にさ・・・、通報した方がいい?」
「えっ?」
「いまから、一緒に見に行ってよ、嘘じゃないんだから、冗談言ってるわけじゃ、ないんだからっ!!!」
「う、うん・・・、いや、見に行かなくても、いいでしょ・・、怖いよ・・・、なにそれ?」
「すっごく怖かった・・・。」
「そっか・・・、まあ、いいよ、そういことも、あるでしょ・・・。」
「そういうこと、普通ないでしょ!」
アオイは玄関で靴を脱ぎ、ぼくにキスもせずに寝室へと消えていった。
「お風呂入って、酒飲むっ!」
寝室からアオイの声が響く。
年末なんて、大晦日なんて、そういうものだろう。
月白貉