ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn)が、自らの感覚で古き日本を歩きまわって独自の感性で見聞を広めたように、遠く故郷を離れてあてどなき夢想の旅を続けるぼくが、むじなと、そしてラフカディオと一緒に、見たり聞いたり匂ったり触ったりした、ぼくと、むじなと、ラフカディオの見聞録です。

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年末の怪談

アオイが息を切らして帰ってきた。彼女が息を切らして帰ってきたことなど、この一年で一度もない。

 

「ねえ!」

 

「どっ、どうしたの?」

 

「まだっ、年明けてないよねっ?」

 

「まだ?ああ、まだね、どうしたの?」

 

「あそこの稲荷神社に、変なお面をかぶった人だかりが出来てた・・・。」

 

「はあ・・・、お面を、それで・・・?」

 

「まだ初詣には早いよね?」

 

「若干早いけれど・・・、待ちきれないんじゃないの?」

 

「血だらけの人間を・・・、担いでた・・・、手足が千切れてて、内蔵とか出ちゃってた・・・。」

 

「えっ?」

 

「お面をかぶった人たちが、血だらけの人間を担いで、騒いでた・・・、警察にさ・・・、通報した方がいい?」

 

「えっ?」

 

「いまから、一緒に見に行ってよ、嘘じゃないんだから、冗談言ってるわけじゃ、ないんだからっ!!!」

 

「う、うん・・・、いや、見に行かなくても、いいでしょ・・、怖いよ・・・、なにそれ?」

 

「すっごく怖かった・・・。」

 

「そっか・・・、まあ、いいよ、そういことも、あるでしょ・・・。」

 

「そういうこと、普通ないでしょ!」

 

アオイは玄関で靴を脱ぎ、ぼくにキスもせずに寝室へと消えていった。

 

「お風呂入って、酒飲むっ!」

 

寝室からアオイの声が響く。

 

年末なんて、大晦日なんて、そういうものだろう。

 

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月白貉