ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn)が、自らの感覚で古き日本を歩きまわって独自の感性で見聞を広めたように、遠く故郷を離れてあてどなき夢想の旅を続けるぼくが、むじなと、そしてラフカディオと一緒に、見たり聞いたり匂ったり触ったりした、ぼくと、むじなと、ラフカディオの見聞録です。

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普通の人間霊と野生の人間霊と、もっと高いところにいる本当はコワい霊の話。

関連する物語デジタルカメラに搭載されている、本当はコワい制御機能の話。

 

キルクの運転するずいぶん旧型のハイエースで目的地のトンネルに向かう二時間ほどの間、ぼくは助手席に座ってキルクの語る様々な話にずっと耳を傾けていた。

 

「パパは、もうずいぶん前に死んじゃったんだ。もう何年経ったのかも忘れちゃった。死んでからの年数なんて単なる記号でしかないし、私は既存の信仰は持ってないから、だから死後の儀式になんか興味ないしさ。ママも、私がまだ小さい頃に、まだちゃんとママの顔すら覚えていない頃に、死んじゃったらしい。私はその時ずいぶん泣いたらしいけれど、よく覚えていない。」

 

キルクは死んでしまった自分の父や母の話をしている時、なんだか目を閉じて眠っている時のような表情を浮かべていた。それは悲しんでいるとか懐かしんでいるとか、何かそういう具体的な感情表現を一切消し去ったような、少し曇ったガラス瓶のような静かな表情だった。

 

キルクが運転しているこのハイエースは、キルクの父親の形見のようなものだそうで、もうずいぶん年代物でガタもきているけれど、なかなか手放すことが出来ないとキルクは言った。

 

「パパのことについて私が知っていることは本当に少ないの。もちろん私をずっと育ててくれたのはパパひとりだし、家ではいつもずっと一緒だったけど、パパには私に隠している大きな秘密があって、その秘密を私に明かさないために、その秘密の周囲にあるたくさんのことも、私に隠さなければならなかったみたい。だから私、パパが死ぬまでどんな仕事をしてたかってことすら、まったく知らないんだよ。でもパパは仕事中の事故で死んだらしくて、パパが働いていた団体から私に直接連絡が来たんだ。」

 

「じゃあ、お父さんが亡くなった後、お父さんがキルクさんに隠していた秘密は明らかになったんですか?」

 

「一部はね。今私がこういう調査をしているのは、その団体でのアルバイトみたいなものでさ。」

 

「一体何をしている団体ですか?」

 

「その団体の母体に当たる組織全体のことに関しては秘密だらけで、私にもよくわかんない。だけど、その団体の研究の一部として、人間よりも遥かに高レベルな霊的存在の調査研究を行っているらしいの。」

 

「高レベルな霊的存在っていうのは、OZUNOに公開している情報にあったような、あの化け物じみた・・・。」

 

「まあ、手っ取り早く言えばあれもそうだね。その団体によれば、あっ、名前は出せないから言わないけど、団体によればね、今のこの私たちみたいな人間は、つまり物質的な体を持ってる人間の肉体っていうのは、別次元に属する霊たちが人間の霊を通常より短時間で育成させるために創り出した容器みたいなものなんだってさ。」

 

「えっと・・・、どういうことですか・・・?」

 

「簡単に言うと、人間という存在の霊は、奴らの食糧なんだよ。肉体という容器の中で人間の霊体をいい具合に成長させて、食べ頃になったら肉体を破壊して、中身を食べるってこと。」

 

「つまりそれは・・・、人間が食糧として食べるために、効率よく魚を養殖したり、家畜を育てたりしているのと同じってことですか?」

 

「似てるかもね。でも人間は、牛や豚みたいに、自分たちが育てられてるとは自覚してないでしょ。」

 

「キルクさん・・・、この話冗談じゃないんですよね?」

 

「たぶんね、私はあんまり突っ込んだところまでは教えられてないし、団体が目的にしているその先のことに関わるつもりもないから、正直わかんないけど。でも、人間の霊を食べている何らかの存在がいるってことまでは、私の中ではもう当たり前。もっと言えば、野生の人間の霊もいるの。はじめから肉体なんかに入れられないで存在している人間ってことね。そっちが最初からいる人間で、やつらは野生の方も食べるけど、野生の人間霊は強いし賢いから、奴らにしてみれば厄介らしいよ。」

 

「ちょっと待ってください・・・、もうぼくがついていけるレベルを越し過ぎている気がします・・・。」

 

「ははは、そう感じるのは最初だけだよ、私だって最初は、でも全部本当だしさ。」

 

「でも食べるって言っても、どんな風に食べるんですか?時と場所を選ばずにいろんなところで毎日たくさんの人が、いや肉体がか、死にますよね。それをいちいち食べに来るわけですか?」

 

「そういう細々したのは、回収専門の奴らがいるのよ。よくさあ、交通事故現場で死神みたいなものを見たとか、人間みたいな手の長い黒い影を見たとかって話があるじゃない?」

 

「いや、ぼくはよく知りませんが・・・。」

 

「そういうのがいるのよ。高次元の霊にも色々いてさ、人間社会みたいにある程度組織化されてる奴らもいるんだよ。一番偉いのとか下っ端とか専門職とかさ。だから、細かな単体での霊回収は比較的下っ端がやってて、巣穴みたいな場所にいる偉いやつに持っていくんだよ。」

 

「イメージとしては、女王アリみたいなのがいるわけですか・・・。」

 

「そうそう。ただし、大量の人間が死ぬ場所には、女王アリ直々に姿を現すこともある。戦場とか、大規模な自然災害が起きた現場とかね。例えばさ、阪神大震災とか東日本大震災とかの現場で、奇妙な目撃談が相次いだって話は有名でしょ。」

 

「いや・・・、そんな話聞いたことありませんよ・・・、ホントですか?」

 

「うん、類人猿みたいな真っ黒い影が群れをなして歩いていたとか、瓦礫の向こうに巨大な節足動物みたいなものを見たとかさ、そういう状況下だと肉眼でもはっきり見える姿で出てきちゃうから、自衛隊の記録用の写真には山ほど写り込んでるらしいけど、まあ当然非公開だろうね。」

 

「キルクさん・・・、これからぼくたちが行こうとしてるのは、まさかその巣穴みたいな場所ですか・・・?」

 

「ピンポ〜ン!でもさあ、シロキくんはなんで心霊写真なんか撮りたいの?」

 

「いや・・・、大した理由ではなくて、なんとなくです・・・。」

 

普通の人間霊と野生の人間霊と、もっと高いところにいる本当はコワい霊の話。

 

 

 

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月白貉