ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲が自らの感覚で日本を歩きまわって見聞を広めたように、故郷を離れて旅を続けるぼくが、ぼくの感覚でその土地を歩き回って、見たり聞いたり嗅いだり触ったりした、ぼくの見聞録です。

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デジタルカメラに搭載されている、本当はコワい制御機能の話。

前回まで目に見えている非日常と、目に見えていない本当はコワい日常の穴の話。

 

「これって、人口のトンネルなんですか・・・?」

 

今はほとんど使われなくなったような路面の荒れ果てた山間の旧道を一時間ほど徒歩で進んでいた二人の前に姿を現したのは、まったく年代不明の朽ち果てたトンネルの入り口だった。それはトンネルと言うよりは、岩山に開いた巨大な風穴のような趣を持っていて、その奥からはやけに冷たい風と煙のような濃い霧がこちらに向けて流れ出てきていた。

 

トンネルの入口から少し距離を置いて立ち止まったキルクは、バックパックから何かの計器を取り出してスイッチを入れた。その計器が一体何を測定するものかはわからなかったが、スイッチを入れた途端、静まり返った山の中に「キーンキーンキーン」という高周波のような音が響き渡った。

 

「もともと人口かどうかはわからないんだけど、江戸時代くらいまでこの穴は鉱山の一部だったらしいの。この周囲の山々はけっこう古い時代は銀鉱山で栄えた場所でね、今ではほとんど人なんか住んでいないエリアだけど、最盛期には三十万人もの人が暮らしていたって話。」

 

キルクは計器のスイッチを止め、再びバックパックに仕舞い込んだ。

 

「なんで山の下で車を停めて、ここまで歩いてきたんですか?」

 

キルクはポケットから車のキーを取り出して宙に円を描くようにクルクルと何回もまわしてからぼくの方をまじまじと見つめた。

 

「何かあった時にね、車を動かせなくされて足止めを食らう可能性があるから。本体のテリトリーには個体差もあるけど、大抵は仕切っている山一個分くらい。だから車をその山の中に入れちゃうとね、おかしな紐付けをされたり、こっちで制御できなくされたりするわけよ。」

 

「本体っていうのは・・・?」

 

「これから調べに行く場所にいるかもしれない霊体のこと。シロキくんその写真が撮りたくて来たんでしょ?」

 

キルクは「あっ!」という顔をしてバックパックからビニール袋に入った何かを取り出した。

 

「きみのその首から下げてるデジタル一眼じゃあ、絶対に本体は写らないから、これ使ってみてね。」

 

ぼくが手渡された袋の中を覗いてみると、そこにはおそらくはずいぶん初期型だと思われる「写ルンです」が二個入っていた。

 

「わあ、懐かしい。」

 

「懐かしいでしょ、最近は生産が大幅に縮小されちゃってるらしいけど、霊体を撮影するならそれが一番だよ。」

 

「えっ、本当ですか?ぼくちょっとインターネットで調べたら、フィルムよりもデジタルカメラの方が心霊写真を撮影するには向いているって書いてありましたよ。」

 

「ふ〜ん、インターネットねえ。ネットの情報なんて十中八九間違ってるから。それにねえ、最近のデジタルカメラのほとんどには制御機能が付いててね、それはマニュアルには書いてないことだけど、霊体が写らないようにされてるのよ。裏事情でね。」

 

「裏事情って、どういうことですか・・・?」

 

「それはここから無事に帰れたら、教えてあげる。」

 

キルクはそう言ってぼくにウインクをした。

 

デジタルカメラに搭載されている、本当はコワい制御機能の話。

 

 

 

 

月白貉