ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲が自らの感覚で日本を歩きまわって見聞を広めたように、故郷を離れて旅を続けるぼくが、ぼくの感覚でその土地を歩き回って、見たり聞いたり嗅いだり触ったりした、ぼくの見聞録です。

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明
明

入江の沖にある、本当はコワい岩礁の話。

「なあバアちゃん、あの入江、今でもまだ地元の人は寄り付かんのか?」

 

「そりゃ寄り付かんだろうなあ。あんなおぞい場所には誰も行きたがらんだろう。」

 

お盆シーズンの混雑を避けるために少し早めの夏休みを取った私は、墓参りを兼ねて父方の祖母が暮らす実家に帰省していた。私の両親が去年の夏に交通事故で他界してから、90歳になる祖母はその家にひとりで暮らしていた。漁師だった祖父はもうずいぶん前に、漁に出たまま行方不明になって、二度と家に帰ってくることはなかったが、祖母は自分の夫がまだ生きていると今でも強く確信しているようだった。

 

「スイカどうだった?冷えてて美味いだろ。」

 

「うん、美味いね、坂田さんが送ってきてくれたんか?」

 

「うん、そうそう。毎年送ってきてくれるからなあ。あそこんちのスイカは美味いんだよなあ。」

 

祖母はとても90歳には見えないほど体が丈夫で肌艶もよく頭もずいぶんはっきりしていて、ひとり暮らしになったいまでも何ら不自由なく生活していると聞いていた。両親の死後、一時私は祖母の暮らす実家に帰ってきてこちらで仕事を探すことも真剣に考えたが、祖母にそのことを伝えると大笑いしながら首を横に振った。

 

「だめだ、だめだ、そりゃなあ、シンゴが帰ってきてくれたらどんなにか嬉しいけどもさ、そしたらおれが安心しすぎてボケちまうだろ。だから、おまえは何もおれのために帰ってくる必要はねえよ。あっちに仕事があんだろうからさ、おれのことは気にしなくても大丈夫だよ。ダメになったらダメになった時だよ。それはおれが考えることで、シンゴが考えることじゃねえよ。」

 

「でもバアちゃん・・・、」

 

「大丈夫だよ、おれは魚加工の手伝いだってしてるし、畑だってやってるしさ、夜だって毎日、ほれ、こんなにも酒飲んじゃうんだから。それにダメになったら、その時はジイさんが船こいで迎えに来るだろ、きっとなあ。」

 

今回の帰省の際にも、なんとなしに祖母の生活を心配して話はしてみたが、やはり祖母は同じようにそう言って、大笑いしてスイカにかぶりつき、口からサブマシンガンみたいにして種を庭先へ吐き出した。

 

「結局さあ、あの入江はなんでみんな怖がるんだ?バアちゃんぼくが小さい時にもおぞい場所だってずっと言ってたけど、何がそんなにおぞいんだ?」

 

「そうだなあ、もうこの辺でも年寄りはほとんど死んじまってるからなあ。あの入江のことちゃんと知ってるのも、おれくらいになっちまったかなあ。」

 

「高校の時に聞いた噂だとさ、あの入江で焼身自殺した人がいるとかで、その幽霊が出るとか、何かが焦げたみたいなひどい悪臭がするとか聞いたけどなあ。でもバアちゃんが絶対に行くなって言うからさ、ぼくは行ったこと無いけど。」

 

「いやいや、そんなんじゃねえんだよ・・・。」

 

祖母は少し黙り込んで、スイカの種をいくつか指でほじくり返しては、庭先に投げ捨てた。

 

「入江の、入江の先に見える沖の方にさ、小さな島みたいにおっきな岩が出てる場所があるだろ。」

 

「ああ、あるねえ。」

 

「あそこに昔なあ、あの岩の上に石で拵えたような社があってなあ。どうやら古い神様祀ってたらしいんだが、その神様がずいぶんな祟り神だって言われてて・・・。ちょうどお盆の頃になるとなあ、岩の上の社の前に毎年必ず地元の若い女性の遺体が打ち上がるっていうことが続いてたんだよ。」

 

「えっ、そんな話、はじめて聞くよ。」

 

「ああ、そうかい。それで結局それは人の仕業でなあ。このあたりに昔あった蛇魂教っていう宗教やってた人間の仕業だったらしくて、犯人は捕まったんだけれど。でもなあ、その後でも何年かに一度、やっぱり同じ時期に社の前で女の水死体が見つかってなあ。あの社は気味が悪いって言って、地元の漁師が国に相談してさ、ダイナマイトで社をぶっ壊したんだよ。それからがなあ・・・。」

 

祖母はそこまで話すとまるで死んだように動かなくなって、庭の隅の方をやけに鋭い視線で睨みつけていた。

 

次回へ続く

 

入江の沖にある、本当はコワい岩礁の話。

 

 

 

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月白貉