ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲が自らの感覚で日本を歩きまわって見聞を広めたように、故郷を離れて旅を続けるぼくが、ぼくの感覚でその土地を歩き回って、見たり聞いたり嗅いだり触ったりした、ぼくの見聞録です。

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明
明

水色ビール、ナツ日記。

毎日毎日同じことを繰り返すだけの生活が続くと、人は頭がおかしくなる。

 

近頃のぼくはその危険性が圧倒的に高く、あわよくばヒステリアシベリアナになって何処かで突っ伏して死ぬかもしれないので、まあそれはそれで、そういう死に方も悪くはないのだけれど、今日は同じことの繰り返し宇宙を脱してみることにした。

 

そして、脱してみたらいつもとは違った日記が書けるんじゃないのかとほくそ笑みながら、今この日記を綴っている。

 

どう脱したのかと言えば、数年ぶりにプールに泳ぎに行った。

 

かつて東京に暮らしていた頃は、スポーツクラブの会員になってほぼ毎日プールで泳いでいたこともあった。調子が良ければだいたい2キロほど泳いでいたので、体もずいぶん引き締まっていた時期もあったが、いまではもうすっかり筋肉も落ちてしまった。

 

近所にプールがあったなら頻繁に足を運んでいたのかもしれないが、今は近所にプールがない。そこで、炎天下の中を5キロ強歩いてプールに向かい、プールで約1時間半ほど泳ぎ、再び炎天下の中を5キロ強歩いて、今帰宅したのである。この5キロ強の道程も曲者で、途中にちょっとした山がある。

 

運転免許証は持っているが基本的に車には乗らない。片道が10キロほどならどこへでも歩いてゆく。炎天下でも往復20キロくらいなら、まだなんとか歩ける体力はあると思う。

 

というわけで、大体の場所を記憶して朝から歩き出したが、施設の場所がうろ覚えだったため案の定途中で迷い出した。iPhoneは持っているが、この数ヶ月は買った時に入っていた箱に入れたままでほぼ持ち歩かないので、GoogleMapで調べるという手段も持たない。ただ基本的な考え方として、歩くということの醍醐味は迷うことにある。まったく迷うことのない徒歩移動あるいは散歩などというものは、カラシの付いていない冷やし中華のごとしである。

 

そして迷った時には迷い倒すのも一つの手だが、今回は目的地が明確に決めてあったので、程よく迷った挙句に通りすがりの老婆に道を尋ねてみた。通りすがりの老人というのは十中八九死んだような顔をして歩いているという印象が強い。ただ、実際に話しかけてみると高確率で顔に生気が戻ってくる。今日の老婆もまさしくそれで、話しかける前は無表情で干乾びたゾンビのような顔をして歩いていたのだが、話しかけた途端、突然に咲いたひまわりのような表情を浮かべて、ケラケラ笑いながらぼくにプールの場所を教えてくれた。老いるということを少し考えさせられた出来事だった。

 

まあそんなこんなでプールにたどり着き、ダラダラと一時間半ほど緩やかに泳ぎ、後半足がつったものの、魚に戻ったような気持ちのよい時間を過ごした。

 

家にはまともな姿見がないので、プールの更衣室にある大きな鏡で自分の体を久しぶりに眺めると、驚くほどガリガリになっていた。ちょっと可笑しくなってゾンビが歩く様を真似していたら、知らぬ間に横にいた男性が見て見ぬふりをしていた。

 

そして再び、汗だくになったパンツとシャツに着替えて、パンツに至っては薄手だったため、あらゆるものを下から漏らしたような汗だくぶりだったが、仕方なくそれをはいて、5キロ強の道程を気怠い体を引きずりながらトボトボ帰ってきたのである。

 

部屋で窓を開け放つと涼しい風と蝉しぐれ、ギシギシと軋む体を時折前衛舞踏のように捩らせながら、何を見るともなく部屋を見回す。

 

まだ20代の頃、何か嫌なことがあると必ず休みの日に朝からプールに出かけ、猛烈に泳ぎ、やはり気怠い体を引きずって家に帰ってきて、トマトソースのスパゲティーとかサラダとかを作って、昼間からビールを飲み、ワインを飲み、何度も何度も観返したことのある大好きな映画を何本も何本も観ながらゆっくりと酒を飲み続け、挙句に大いに酔っ払って眠りについた。

 

いまでも大して変わることのない日々を過ごしているかもしれないが、時々ふとあの頃の自分が少し他人のように思えることがある。あるいはそれは過去を悔いているからなのかもしれない。

 

そんなことをぼんやり考えながら、ここ何年かは、昼間から酒を飲むことなんてなくなったなあと思い、少し寂しくなった。今日はもうこれを書き終えたら、ツマミを作りはじめて、下ごしらえが済んだら、上半身裸にビーチサンダルを履いて、麦わら帽子をかぶって、虫あみも持って、近所にビールでも買いに行こうかなあ。

 

今この刹那、夏の只中より

 

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カールスバーグ 缶 350ml×24本

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月白貉