ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲が自らの感覚で日本を歩きまわって見聞を広めたように、故郷を離れて旅を続けるぼくが、ぼくの感覚でその土地を歩き回って、見たり聞いたり嗅いだり触ったりした、ぼくの見聞録です。

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明
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10億円の入ったバッグを担いで不老不死の妙薬を薬局に買いに行こうとしたら、玄関で転んで豆腐の角に頭ぶつけて犬に喰われて死んだ日記。

ここ数年かな、生への執着みたいなものが薄れた気がする。

 

それは死にたいということではなく、死なんてものは当たり前のことで、そこかしこに、それこそ自分のすぐ横にも蠢いていて、なんだったら蠢くなんて禍々しいものでもなく、スキップを踏んで口笛なんか吹きながら、毎日毎日ぼくの後ろをついてきたり周囲をグルグルまわったりしている。

 

だからいつなんどきでも、“彼”が唐突にぼくの手を楽しげに引っ張って、「よし、逝こう!」ということだってあるはずである。

 

人々はそんな彼の存在や行為を恐れて、彼に死神なんていうネーミングをしてしまって、恐怖のイメージヴィジュアルを描きこんでしまって、完全に悪の存在として捉えている。黒いマントをかぶっていて、巨大な収穫用の鎌を持っていて、本体は死後の人間をイメージさせる骸骨で、つまりは、死というものに常軌を逸した恐れを抱いているのである。

 

だから生への執着ってものが単に死にたくないという意味ならば、昨今のぼくは大して死にたくないとは思っていないので、生への執着なんてあまりないんじゃないのかと思うわけである。もちろん生物の本能として、死という概念を創り出して恐れ足掻くというプログラミングがなされているのなら、無意識の内に死への恐れから来る生への執着というものは、絶対的に持ってるかもしれないけれど。

 

ただ、人間が生と呼んでいる状態なんて、厳密には生でも死でもなくまた別な状態かもしれないし、なんでこんな風にして、泣いたり笑ったり怒ったり、食べたり屁をこいたり糞したり眠ったりしているのかが、時々よくわからなくなる。

 

最終的には人間たちは生きるためだとかなんとか言って次から次へと新しい世界を創り出すけれど、人間たちが生きるためだと言って行っている行為こそが、大いに肉体と精神を痛めつけて死に向かう行為に他ならない。単純に生きるという状態を保つためだけだったら、ずっと原始的で質素な生活をしていればいいんじゃないのだろうか。

 

結局、生きるということが大いに物質的な欲に紐付いてしまっていて、本来の生というものから遥かに遠ざかってしまっているような気がする。肉体を失いたくないということだって物欲である。つまり死にたくないというのは圧倒的な物欲だと言えるかもしれない。不老不死なんて概念は、その極みだろう。だとすれば、ぼくは昨今物欲が大いに薄れたので、それが生への執着が薄れたことと何ら関係しているのかもしれない。

 

死にたいと思っているのではなく、死にたくないとは思ってはないのである。死にたいのではなく、別にいつ死んでもいい、そこはちょっと違う。

 

吉田兼好が『徒然草』の中でこんなことを言っているそうである。

 

人間はアリのように集って、東西に急ぎ、南北に走って、云々、夜になると眠り、朝がくると働きだす。何のためにそうした生活をいとなんでいるのか。ただ長寿を願い、利を求めてやむときがないのである。しかし老と死はまことに速くやってくる。そんな有り様で人生に何の愉しみがあるだろうか。ところが迷っている人間は、それを少しも気にかけない。というのは、名利におぼれて、死という人生の終点が近いことを考えようとしないからである、云々。

 

ここ数年、ぼくはこの迷っている人間とはやや異なった営みをしている。しかし今までが随分と迷った人間の類だったため、なかなか身に染み付いた癖みたいなものが取り払え無くて悩むこともある。けれど物欲は減ったし、物が欲しくないということは金なんてものも大して必要ないと思うようになった。いっそのこと無一文にでもなれば、清々するかもしれない。そして無一文で生きていけなくなったら、それで死んでも別にいいじゃないかと思っている。

 

物欲は大いに心も蝕む。多くの人々は肉体的な死から逃れること、つまりプチ不老不死ばかり考えて、名利ばかり追い求めているから、ある意味ではとっくに死んでいるんじゃないのだろうか。

 

追伸、ぼくは現時点では生きているし、今この刹那やるべきことと言えば、この瞬間を如何にクソ楽しく過ごすかということ以外には、なにもない。

 

10億円の入ったバッグを担いで不老不死の妙薬を薬局に買いに行こうとしたら、玄関で転んで豆腐の角に頭ぶつけて犬に喰われて死んだ日記。

 

 

 

新訂 徒然草 (岩波文庫)

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月白貉 - Mujina Tsukishiro