太陽のカエルになった南の静かな青年と、4人の魔女が支配する世界日記。
夢の果てまでも。
大抵のことは、なんとかなると思っていれば、なんとかなる。なんとかなると思うことが、たいせつさ。
寝ようと思ったら、部屋の壁にゲジゲジがいたので、しばし格闘。眠気が覚め、夜空をあおぐ。まあそういうことが、日々というものだ。
眠いんだか眠くないんだかわからなくなり、呪文をとなえる。
オープン・セサミ。
墓地の下にある岩壁に人工的な穴がたくさん空いていた。行ってみたくて10分ほど悩むが、草むらの鬱蒼具合と、蜘蛛の巣の尋常じゃない数を考慮してやめることに。
あれは地下墓所かな・・・、行かなくてよかったのかも。
昔、モリアオガエルの群生地にそうと知らずに迷い込んで、大量の鳴き声に驚いたことを思い出した。『もののけ姫』のコダマのシーンそのものだった。ちょっと恐怖を感じた。あれは確実に妖怪の部類だよ。よくよく考えると、ぼくはずいぶん妖怪にあっている。
やあ、べる、久しぶり。きみに話しかけるのはほんとうに久しぶりだね。
きみに出会ったのは、確か13年くらい前かな。いまでもよく覚えている。残念ながら、きみに自慢できるような13年間ではなかった気がします。出会ってからしばらくして、きみは夢見ていた太陽に飛んでいってしまったけれど、ぼくはまだ地球にいるよ。でも最近東京を離れて、見知らぬ土地にきたんだ。きみほどじゃないけれど、あの頃よりは、ぼくはいろんなところに飛んでゆくことができるようになった。ほんとうについ最近だけれどね。
いつかきみのように、もっともっと高く高く、そして自由に飛び回れるようになりたいなあって思う。もうちょっと時間がかかるかもしれないけれど、いつかきっとそうなれる気がします。
ではまた。
地球のべるより。
p.s.太陽での暮らしは、どうですか?もし術があるなら、ぼくにも長い手紙を書いて送ってください。心から待っています。
べるという名前は、あるかえるに由来している。ずっと昔にぼくが考えた小さな小さな物語の主人公。
ある都会のど真ん中、四方をコンクリートで固められた真四角な溜池に暮らすそのかえるは、溜池から道路を挟んで向かいに建つ古い教会の、定刻を知らせる鐘の音がとても大好きでした。毎日毎日変わることなく続くあたりまえの小さな出来事は、小さくて緑色をしたかえるの心と体をずっとふるわせ続けました。そしてある日こう思うのです。
「自分にべるという名前を付けてみんなに教えよう。」
どんな時でも、あのベルみたいに、自分が誰かの心と体に静かに響き渡る存在でいたいと、そう思ったからです。そしてそう思ったその日から、べるの日々はとても素敵なものへと変化してゆくのです。だからぼくも、かえるのべるから名前をもらいました。今思えば、ぼくのことをべるって呼んでくれるようになった人は、みんな素敵な人ばかりでした。だからもっともっと世界に素敵な人が増えますように。
まったく別のある物語の中にも、べるという人物が出てくる。サウスエリアに暮らす、反政府メンバーのひとり。
カラーと呼ばれる特殊能力を持つ四人の魔女が支配する世界の話だ。
いまぼくはどこにいるんだろう?
おやすみなさい。
月白貉