ぼくの恋人の吸血鬼は、イタリア出身のウズベキスタン人でトルコに住んでいる日記。
妖怪絵師になりたい時期があった。いや、いまでもなりたいのだがね。
イタリアのカフェーで、ウズベキスタンの人に、トルコ風のお茶を入れてもらって飲む。
iPhoneの電源の減りが尋常ではない。ほんと尋常ではない。もはや事件の域だと思う。事故ではなく、あくまで事件。きみはどう思うかね、ワトソンくん。
まいにち、まいにち見ている景色。
いつだって同じ景色なんか見られない。いつだって同じ世界にはいないってことだ。
「わたしは吸血鬼ではないけれど、あなたの血がすいたいのです。」
そう言って、汽車のボックスシートで向かいに座った見知らぬ彼女は、唐突にぼくの首に噛み付いた。鋭い牙ではない、あるいは犬歯でもない、普通の平らな歯がぼくの首に食い込み、ぼくの首から血が流れ出した。吸血鬼だろうが、そうではなかろうが、ぼくはその時に、彼女に恋をしたのだ。
恋なんて、たいていはそんなことがはじまりなんだ。
真夜中をぶらぶらしてみるが、竹やぶから聞こえてくる音が恐過ぎて帰還。友人が笑い声が聞こえてくるって言ってたやつ、あれのことかなあ。
昔は街灯なんかなかったはずだからもっともっと真っ暗だったろう。そういうものに対する恐れみたいなものは、大切なのかもしれないなあ。でも流れ星をみたよ。さて、観念して眠りにつくか。
ぼくが数年前に生活をしていた部屋は、部屋の二面が障子だった。書生さんが仮住まいをしているような、まったく収納もなにもない部屋だった。四畳半くらいである。
ある日、夜遅くに帰宅して、部屋の裸電球に明かりをつけてから、いったん部屋を出て台所にゆき、用を済ませて戻る途中、廊下側の部屋の障子に巨大なゴキブリの影が映っていた。影が映っているということは、部屋の中にいる。「あっ」と声が出る。しばらくその影を眺めている。写真は撮り忘れた。ちょっと侘びで寂な恐怖感を味わう。少し拡大されて障子に映る、触覚だけがうごめくゴキブリの影なんて、今まで見たことがなかった。まあ部屋に入るとその場所に、それなりの大きさのものがそれなりにおり、それなりに退治しようとするが、まんまと逃げられる。
まあ仕方なかろうと思い、クテリと眠りにつくのであった。
気になった酒器を買う。買ったばかりで落っことしてヒビが入る。そういうことも含めての、気に入ったってことだと思う。完璧なものばかりがあっても、それは違うのだということが少しだけわかってきた。いや、じつはずっと前からわかっていたんだよね。
おやすみなさい。
月白貉