ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn)が、自らの感覚で古き日本を歩きまわって独自の感性で見聞を広めたように、遠く故郷を離れてあてどなき夢想の旅を続けるぼくが、むじなと、そしてラフカディオと一緒に、見たり聞いたり匂ったり触ったりした、ぼくと、むじなと、ラフカディオの見聞録です。

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鹿児島の峠道で起きた、聞いたことのあるような奇妙な話。

最近たまたま聞いた話に、こんなものがあった。

 

ぼくの知り合いが、熊本県に住む知り合いの女性に聞いたという話である。

 

あるお盆の頃に、その女性の知り合いの、アパレル関係の会社に勤めている竹本さん(仮名)という男性が、営業のために鹿児島の辺りを車でまわっていた時のこと。その日の商談が予定よりもずいぶん早めに終わってしまい、当初は鹿児島のビジネスホテルに一泊するはずだったのを急遽変更して、帰宅することにしたという。

 

雨の降る夜の薄暗い山道を、家路に急いで車で走っていると、目の前に突然、仔猫が飛び出してきて、竹本さんはブレーキが間に合わずにその仔猫を轢き殺してしまったという。けれど、なんてことをしてしまったのだという罪悪感に苛まれつつも、雨の強くなる中どう処理していいかもわからずに、そのまま仔猫の死体を放置して車を走り出させてしまった。

 

するとしばらくして、そんな時間には車など一切通らないような峠の道で、何かが車の後ろから追いかけてくるような気配がする。なんだろうと思ってふとバックミラーを覗くと、先程自分が轢き殺した仔猫を口に咥えた親猫らしきものが、ものすごいスピードで竹本さんの車を追いかけてくるのが見えた。恐ろしくなった竹本さんは、車のスピードを上げたのだが、子猫をくわえた大きな猫が、普通では考えられないとんでもないスピードで後を追ってくる。バックミラーを覗き込むのが恐ろしくてたまらなくなった竹本さんは、もうそちらには目を向けずに、必死の思いで山を下って、とある住宅地に辿りついた。

 

正面にぼんやりと広がる住宅の灯りを目前にして、交差点の信号につかまった竹本さんは、恐る恐る振り返って車の背後に目をやってみる。

 

すると後ろには、クロネコヤマトの配送車が停まっていたという。

 

なんだ奇妙な、ちょっと笑いにも取れるオチなのだが、これはこれでよくよく考えてみると、恐い話である。

 

続きや後日談があってもよさそうな話だが、ここで終わりだそうである。

 

鹿児島の峠道で起きた、聞いたことのあるような奇妙な話。

 

想像し得る続きとしては、ずっと家まで後をついてきたクロネコヤマトの配送車が、竹本さんの自宅に「仔猫」を届けたというようなものもあるかもしれない。

 

血がしたたるダンボールを手渡されて、伝票にサインを求められる。

 

宛先に目をやると、自分の車のナンバーが書かれている。

 

クロネコヤマトは、それをずっと追いかけてきたわけである。

 

けれど、もしかすると、そこまでゆかずに、薄暗い交差点で唐突に終わる情景のほうが、よっぽど恐いかもしれない。

 

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月白貉