ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲が自らの感覚で日本を歩きまわって見聞を広めたように、故郷を離れて旅を続けるぼくが、ぼくの感覚でその土地を歩き回って、見たり聞いたり嗅いだり触ったりした、ぼくの見聞録です。

珈琲がいれられなくて、おちこんだりもしたけれど、僕はげんきです。

ぼくには出来ないことがたくさんある。

 

その出来ないことをリストにして書き出してみたら、さぞかし大量に出てくるだろうと思うけれど、たまにはそういうことを改めて把握しておくことも、もしかしたら大切なことかもしれない。

 

でもたぶん、出来ないという事実さえも知らない「出来ないこと」がたくさん存在するだろうから、あまりそのリストは意味を持たないだろうとも思ったりする。出来ないことのリストなんて膨大に考えられる。

 

ケツの穴から火を吹くことが出来ないとか、野良猫になることが出来ないとか、一週間まったく呼吸をしないで全速力で走り続けることが出来ないとか。

 

そんなわけで暇つぶしに、なんとなく、明確に出来ないことについてだけ、少し書いてみようと思う、まあ言わば日記の類の、煮ても焼いても鉄砲で撃っても喰えない、森の中の雑文である。

 

ぼくは珈琲がいれられない。

 

この文章を書く切っ掛けともなった、現実的に出来ないことリストの筆頭である。今さっき珈琲をいれられないぼくに、連れが、「人にいれてもらった珈琲のほうが美味しいから、いれてよ。」と言ったので、じゃあチャレンジしてみようと思って珈琲のいれ方の手ほどきを受けようとしていたら、うっかり挽きたての珈琲の粉を台所中にぶちまけてしまって、夕暮れ時の大掃除をする羽目になった。そんな自分に腹が立ってイライラして、結局は珈琲をいれるのをやめてしまい、珈琲をいれることが出来ない自分のまま、珈琲なんて二度といれるもんかと思いながら、まだいれていないから、試みの段階で心折れたのだが、そうやってこの文章を書いている。そういうことがあったから、この文章が生まれたわけで、人生何が起こるかわからないけれど、それはさておき。

 

珈琲をいれられない理由は、自分がほとんど珈琲を飲まないからだと思う。

 

たぶん好んで毎日毎日珈琲が飲みたいという衝動にかられていたら、当然のごとく珈琲をいれることが出来るようになっているはずである。必要にかられないもの、あるいは求めないものは、大いに出来ないことリストに入ってくる可能性が高い。

 

逆に言えば、必要にかられること、激しくではなくとも求めることに関しては、おのずと出来るようになるのかもしれないと、そう思う。

 

だったら例えば、空を飛びたいと切に求めていたら、いつか空を飛ぶことが出来るようになるかもしれないなあと、ちょっと真剣に思ったりする。

 

Witches going to their Sabbath (1878), by Luis Ricardo Falero

 

どうしても珈琲が飲みたいという渇望と、どうしても空が飛びたいという渇望が、あるいは同じレベルに達した時、人は鳥のように空を飛ぶことが出来るようになるんじゃないのだろうか。人は飛びたいと切には求めていないから、空を飛ぶことが出来ないのだろう。いや、ぼくが知らないだけで、出来る人がいる可能性もあるけれど。

 

では逆に、求めることが出来るようになることにつながるのと逆に、求めないことが必ずしも出来ないかと言えば、どうだろうか。

 

極端な話だが、死にたくないと切に願っても、それこそ渇望しても、死は必ず訪れる。死を求めずとも、つまりは死ぬことが出来ないわけではなくて、出来ちゃうわけで、死なないことを願っても、それは出来ないのである。

 

どんなに求めても足掻いても必要にかられさえしても、出来ないことがやっぱりある。

 

じゃあ、ぼくが珈琲をいれることが出来ないのは、なにも求めていないからではなくて、もしぼくが珈琲をどんなに求めても、もしかしたらいれることが出来ないような、変えることの出来ない呪われた運命のようなもので、それはこの生の先にある死のようなものと同じ逃れられないものとして、珈琲をいれることが出来ないかもしれないじゃないか。

 

なるほど、それだったら空を飛ぶことが出来ないことも、それはあるいは運命のようなものなのかもしれないなあと、そう思って納得できる。

 

結論としては、ぼくは求めようが求めまいが、珈琲を入れることが出来ない運命のただ中にあるのだということで、それじゃあ仕方がない。

 

まあそれはそれで、ちょっと落ち込んだりもするけれど、でもやっぱりぼくは、たとえ珈琲がいれられなくても、元気です。

 

だって出来ないことは、出来ないのだからなあ。

 

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月白貉