ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲が自らの感覚で日本を歩きまわって見聞を広めたように、故郷を離れて旅を続けるぼくが、ぼくの感覚でその土地を歩き回って、見たり聞いたり嗅いだり触ったりした、ぼくの見聞録です。

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全米を震撼させた森の魔女伝説、再び。-『ブレア・ウィッチ』(Blair Witch)

1999年にアメリカで公開された映画、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(The Blair Witch Project)をご存知だろうか。

 

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わずか六万ドルという低予算、かつ異例の少人数で製作された映画にも関わらず、全米興行収入が一億四千万ドル、全世界興行収入はなんと二億四千五十万ドルというミラクルヒットを飛ばして話題となったインディペンデント作品であり、当時、映画を観た人々を恐怖のどん底に陥れた。

 

では、いったいどんな内容かということをさらっとだけ説明すると、とある森に言い伝えられている魔女伝説を題材として、その伝説を追うドキュメンタリー映画を撮影するために森の中に分け入った三人の映画学科の学生が消息を絶ってしまう。その一年後、彼らの撮影したフィルムが発見され、その三人の学生が森の中で撮影したと思われる映像をそのまま編集して映画化した、という触れ込みの映画である。

 

確かアメリカでの公開当時には、これがフィクションであるとは公表されずに、その背景説明のためのメディアミックスなどと相まって、大きな話題を呼んでいたことを覚えている。

 

ただ実際にはノンフィクションではなくフィクションであることが後に明かされる。いわゆる擬似ドキュメンタリーの手法をとった映画なのである。

 

そしてなんと、今年の十二月、長い年月を経て、その『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』の正統的な続編、『ブレア・ウィッチ』(Blair Witch)が公開されるのである。

 

 

実は以前にも『ブレアウィッチ2』(Book of Shadows : Blair Witch 2)という続編的な作品は製作されているのだが、この作品は擬似ドキュメンタリーという手法は受け継いでおらず、また前作を監督したダニエル・マイリックとエドゥアルド・サンチェスは、製作総指揮に名を連ねてはいるものの、この続編に関しては二人の意に反して製作されたという認識を示している。

 

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さて話を戻すが、ここで先行して期待の新作『ブレア・ウィッチ』の映画の内容を話してしまっては、いずれ公開される映画を観る際の楽しみの妨げになる恐れがあるので、話を少し横にそらして、この題材となっている魔女伝説の、これまた脇道の話をしたいと思っている。

 

物語の舞台となっているメリーランド州バーキッツビル、その地にあるブラック・ヒルズという森に言い伝えられている「ブレア・ウィッチ」と呼ばれる魔女の呪いの伝説のはじまりは、十八世紀にまで遡る。

 

劇中でその魔女の正体ではないのかとされているのが、エリー・ケドワードという人物である。

 

まあその経緯を簡単に言えば、この人物がその地で行ったある行為によって魔女だと言われて弾圧を受け、その結果死んだとされているのだが、その後、その弾圧に加担した住民の半数が行方不明となって忽然と姿を消してしまう。それがエリー・ケドワードの呪いによるものだと恐れた他の住民は、その地を捨てて逃げ出してしまい、町は廃墟と化す。そして、その地が当時ブレアという名前だったことにちなんで、ブレア・ウィッチとそう呼ばれているのである。さらに現在、ブレアの跡地にはバーキッツビルという町ができているのだが、その後も、同地のブラック・ヒルズの森では度重なる怪しげな事件がおきており、人々はかつての魔女の呪いのことを、口々に噂しているのだという。

 

さて、実はこのエリー・ケドワードという名前は、ある実在の人物の名前をモデルとして生み出されているのであるが、それこそが、あのエドワード・ケリーなのである。

 

エドワード・ケリーとは、かの錬金術士ジョン・ディーの魔術的な研究に協力した弟子のような立場だとか、あるいはライバルだったとか言われている人物なのだが、確かなことはわかっていない。記録によると、1583年から1589年にかけて、ジョン・ディーがエドワード・ケリーと共に、ポーランドボヘミアを遍歴し、各国の王宮などで貴族たちに交霊実験やら魔術を披露して、話題を博していたという。

 

ここで新たに浮上してきたジョン・ディーとは、水晶玉を利用した心霊研究と、おなじく水晶球により大天使ウリエルとの交感を持ったとされる人物で、エリザベス一世に寵愛されたことでも知られている。また水晶玉の中に現れる彼が天使だとする存在が用いる奇妙な言語を、彼が「エノク語」と名付けたことでも知られている。そして、このエノク語は後の研究によって、単なるでたらめな言語ではなく、ある程度理にかなった構造を持つ言語だということが判明している。

 

また、彼はハワード・フィリップス・ラヴクラフトの作品の中で度々言及されている謎の書物ネクロノミコン」との関係も指摘されている。

 

ネクロノミコンとは、狂える詩人アブドル・アルハズラットによって、730年にダマスカスにおいて書かれた「アル・アジフ(Al Azif)」が原典であるとされる書物である。ネクロノミコンという表題はギリシャ語への翻訳の際につけられたものだとされていて、ギリシャ語で「死者の掟の表象あるいは絵」という意味だといわれる。そしてこのネクロノミコンを、ラテン語版を元にして英訳した人物こそ、ジョン・ディーだとされているのである。

 

ちなみに現存するネクロノミコンの版本のほとんどは十七世紀のもので、ハーバード大学のワイドナー図書館、パリ国立図書館ミスカトニック大学付属図書館、ブエノスアイレス大学図書館などでの所蔵が確認されているが、完全なものは世界に五部しか現存していないと言われている。

 

とまあ、まったく脇道の、そのまた脇道の話に至ったのだが、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』の根幹となっている魔女伝説に紐付けされた事柄を、さらにさらにと奥までたどってゆくと、実に怪しげな話がずらりと出てくるという、まあそんなことが書きたかったわけである。

 

脇道ついでにもうちょっとだけ触れておくと、ブレアの魔女の名前のモデルとなっているエドワード・ケリーは、歴史の中ではどちらかと言えば詐欺師のような扱いになっている場合が多いのであるが、彼が、錬金術に傾倒していたルドルフ二世から金を詐取するために、もしくは師匠かあるいはライバルであったジョン・ディーをかつぐために偽造したとされる謎の古文書が存在する。

 

1912年にイタリアで発見された古文書、「ヴォイニッチ手稿」と呼ばれるものが、それである。

 

ヴォイニッチ手稿 - See page for author [Public domain], via Wikimedia Commons

 

この古文書は現存する分で約二百四十ページの羊皮紙で出来ており、いまだにまったく解読されていない文字で書かれた文章の他、ほとんどのページに様々に彩色された生物を思わせる挿絵が描かれている。書かれている文字が解読されていないくらいなので、もちろん本書の正式な題名も不明のままである。「ヴォイニッチ手稿」という名称は、発見者である古書収集家のウィルフリッド・ヴォイニッチにちなんで名付けられている。

 

そしてこれが一部では、やはりあのネクロノミコンの写本ではないのかと、囁かれているのである。

 

まあここではあえて、これ以上の深淵を覗くことは避けておくが、あるいはもしかしたら、こういった脇道のさらに脇道の背景を踏まえて続編である『ブレア・ウィッチ』を鑑賞した暁には、なにか他の人が知らない事実に気付くかもしれないし、実は作品の隠された部分には実際にこれらのエッセンが散りばめられているかもしれない。

 

というわけで、映画とはずいぶんかけ離れた話に及んでしまったが、なにはともあれ、続編の『ブレア・ウィッチ』、ちょっと楽しみだなあ。

 

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