ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn)が、自らの感覚で古き日本を歩きまわって独自の感性で見聞を広めたように、遠く故郷を離れてあてどなき夢想の旅を続けるぼくが、むじなと、そしてラフカディオと一緒に、見たり聞いたり匂ったり触ったりした、ぼくと、むじなと、ラフカディオの見聞録です。

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クチとは何か - キツネにならきっとわかる憑物の話 -〚 第拾参話 〛


沖縄県、また鹿児島県奄美諸島にはクチというものがある。

 

クチというのは、お茶や食べ物などに人を呪詛する呪詞を唱え入れて、相手に飲ませたり食べさせたりして害を成すことをいう。

 

クチの入ったものを飲んだり食べたりすると吐き気をもよおしたり血を吐いたりして、そのままにしておくと命にかかわる。

 

そのため奄美などでは若い頃から、見知らぬ家でお茶を飲む場合の注意を親兄弟から教えられるという。これはどんなことかといえば、親指を茶碗の内部に下に向けてお茶を飲むとクチが入っているか否かがわかる。お茶にクチが入っている場合には、お茶がブクブクと泡立ってくるという。こうすることで呪咀のクチが解けて、この呪詛はクチを入れた本人に返され、害もまたその本人に返ってゆく。場合によっては死に至ることもある。

 

呪術としてのクチを返すことをカエシグチと呼び、これは上記のような方法や、直接呪文を唱え返すという場合もある。また地域によっては蟹を使った蟹クチトキなるものが存在するようだが、その方法は定かではない。

 

ただこのクチというのは同地方ではより広義に使われており、上記のようなお茶や食べ物など、あるいは言葉を媒介した邪悪な呪術に用いられる場合のクチは特にフイグチなどという。

 

このクチを使うのは特定の人に限られていて、ノロとかユタとか呼ばれる職能的霊能者や、おもしろいのは大工、鍛冶屋などといった職能者もクチを使う。この大工や鍛冶屋に関して言えば、これらの人々が日常生活の中でも、セイクノ神(大工の神)やカンジャの神(鍛冶の神)を祀っていることによるものだと考えられる。ちなみに大工の使うクチのことを特に大工クチなどと呼ぶ。また沖縄に見られるイチジャマのようにクチにも家筋があり、イチジャマと同じくクチを知るものは女性である場合が多いが、その中でも大抵は老婆であるともいわれる。

 

クチとは何か - キツネにならきっとわかる憑物の話 -〚 第拾参話 〛

 

このクチは場合によっては何かの憑依物のように考えられていることもあるようで、例えば強いクチを使う者は時々自分の顔が重くなることがあり、その時には木や石などにクチを入れると軽くなる。ただこのクチの入った木や石に第三者がうっかり触ってしまうと、クチの使い手とは無関係でもクチが体に入ってしまい、頭痛や吐き気をもよおすといわれる。

 

次回へ続く。

 

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月白貉