ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn)が、自らの感覚で古き日本を歩きまわって独自の感性で見聞を広めたように、遠く故郷を離れてあてどなき夢想の旅を続けるぼくが、むじなと、そしてラフカディオと一緒に、見たり聞いたり匂ったり触ったりした、ぼくと、むじなと、ラフカディオの見聞録です。

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蝦蟇の憑物 - キツネにならきっとわかる憑物の話 -〚 第拾壱話 〛

 

岩手県高田市や福岡県久留米市などでは、蝦蟇(がま)は狐や狸同様に人に憑くと言われている。

 

根岸鎮衛は『耳嚢』巻之四の中で「蟇の怪の事」という話をあげている。

 

これは人家の床下に蝦蟇が住み着くと、その家に住む者は鬱々として衰え煩ってしまうというものである。この場合には、床下の蝦蟇を打ち殺して、床下を綺麗にすればよいといわれている。またこれとは別に、愛知県などの俗信には、蝦蟇が床下にいると生き血を吸われるとされるものもあり、これは生き血を吸われれば病み衰えると信じられていたというから、前者に同様のものであろう。

 

福岡県久留米市では、蝦蟇に憑かれることをワクド憑きと呼ぶ。

 

これは無闇に蝦蟇を殺すと人に憑いたり祟ったりするというもので、蝦蟇に憑かれると耳が非常に痒くなるという。また耳の中がくすぐられるような感じがするとも言われている。及川義右衛門の「久留米地方の憑物と祟り」によれば、蝦蟇の憑物は耳に中に棲みつくとされていて、精神的に不安定な人の中で耳垂れなどの耳から膿が出る症状を伴った者は蝦蟇に憑かれているといわれて、その状態を「蝦蟇に甘酒を醸された者」などと言ったという。また同様の症状に加えて、髪の毛がむしり取られたようになっている者も、やはりこれは蝦蟇の祟だとされている。これとは別に、白い蝦蟇を殺すと目か耳をやられてしまって、急に目が見えなくなったり、耳が聞こえなくなるという話もある。

 

私などは子供の時分によくトノサマガエルやウシガエルなどを捕まえたものだが、蝦蟇となるとなかなか威厳が違っていてなにやら恐ろしく、捕まえようなどとは思わなかった。ただ一度だけ、庭をノソノソと歩いている蝦蟇を見つけたことがあって手で持ち上げてみると、何やらブツブツの皮膚から白い液体のようなものを出して、さらには大量の小便を撒き散らしだしたので、やはり恐ろしくなってすぐに手放してしまった。

 

あの蝦蟇の分泌液にはどうやら幻覚性の毒があるらしく、中南米などの原住民族の間では、シャーマンが蝦蟇の分泌物を口で吸ってトランス状態に陥り、呪術を執り行うという儀式がしばしばあると聞いたことがある。

 

蝦蟇の憑物 - キツネにならきっとわかる憑物の話 -〚 第拾壱話 〛

 

いずれにせよ蝦蟇とはちょっと特別な生き物だという考え方が古くからあるのかもしれない。

 

次回へ続く。

 

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月白貉