ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn)が、自らの感覚で古き日本を歩きまわって独自の感性で見聞を広めたように、遠く故郷を離れてあてどなき夢想の旅を続けるぼくが、むじなと、そしてラフカディオと一緒に、見たり聞いたり匂ったり触ったりした、ぼくと、むじなと、ラフカディオの見聞録です。

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憑物百怪 - キツネにならきっとわかる憑物の話 -〚 第弐話 〛

一口に憑物と言っても様々である。

 

憑物と聞くと、狐とか狸とかの動物霊が人に取り憑くというイメージをまず思い浮かべると思う。しかし憑物はそういった動物霊だけには留まらない。

 

動物霊以外にも、憑物の中には生霊とか死霊あるいは祖霊などの人間の霊や、さらには神霊や仏霊など、正体不明のものも多く存在する。

 

かの水木しげるが書き残した著書の中に『憑物百怪』というものがあり、この中には約120種類の憑物が紹介されているくらいなので、それだけ見ても単純計算で各都道府県それぞれに二三種類はいることになる。

 

 

まあ水木しげるの本に関して言えば、その詳細については氏の想像や妄想も大いに含まれた内容ではあるのだが、数に関して言えば、氏が全国から収集した憑物の呼称の種類に間違いはないので、その点はとても興味深い。さらには、氏によって描かれた憑物の数々が見応えたっぷりなのは、もちろん言うまでもない。

 

さて、第零話でも述べたように、憑物は大きく分類すると三つに分けられる。

 

 

野にいて突発的に人に憑いて弊害をもたらすもの、特定の家に祭られたり飼われたりしていて第三者に弊害をもたらすもの、巫女などに使役されているもの。

 

通常、この中でも民俗学などでのいわゆる「憑物」としては、人に憑いて弊害をもたらす動物霊とある種の生霊に焦点が当てられている。特に家筋に関わったもの、つまり憑物筋に関する研究が軸とされている。 

 

そういったものの中でまず筆頭にあげられるのが、狐である。

 

この憑物としての狐の中には様々な種類があり、関東ではオサキ狐、中部地方ではクダ狐、東海地方の一部ではオトラ狐という呼称が存在する。また関東の一部および東北にかけてはイヅナという名前もあるが、これはクダ狐と同じものだとも言われる。

 

西日本を見てみると、近畿地方ではただ単に狐としか呼ばないようであるが、中国地方の東部ではトウビョウ狐、山陰中部に来ると人狐(ひとぎつね)、また九州の西部から南部にかけては野狐(ヤコ)という名前がある。

 

次に多い憑物としては犬、つまり犬神という犬の霊があげられる。

 

この分布としては四国から中国地方の南西部、そして九州の東部、種子島にも見られるという。基本的には犬神(イヌガミ)という呼称だが、地域によってはイヌガメ、インガメ、イリガミなどと訛った呼称に変化しているものもある。

 

そして次には、蛇があげられる。

 

分布は四国を主として山陽一帯、九州にも若干存在する。単に蛇、蛇神あるいはトウビョウと呼ぶ場合が多いが、地域によってはトンベ、トンベガミ、トンボガミなどと呼ばれることもある。

 

この三つが日本における代表的な憑物とされていて、これに比べると他の憑物の範囲はぐんと狭くなるのだが、第零話でも述べたように、他にも狸、猫、猿、あるいは河童なんてものも存在する。ちなみに河童の憑物は主として九州の五島、平戸、壱岐対馬などに分布している。

 

また最初にも述べた島根や広島の外道(ゲドウ)というものがあるが、これは前述した人狐や犬神を罵倒する言葉からきているものだとされる。

 

さてもうひとつ、こういった動物霊とは別に人の霊が憑くというものが存在する。

 

もちろん人の霊に取り憑かれるという話は全国各地に山のように存在するのだが、ここで触れる人に取り憑く霊とは、家筋に関係がある。飛騨地方および薩南諸島や沖縄の島々には、代々生霊を出す家筋というものが存在していて、飛騨地方ではゴンボダネ、薩南諸島と沖縄ではイチジャマと呼ばれている。

 

次回へ続く。

 

 

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月白貉