ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn)が、自らの感覚で古き日本を歩きまわって独自の感性で見聞を広めたように、遠く故郷を離れてあてどなき夢想の旅を続けるぼくが、むじなと、そしてラフカディオと一緒に、見たり聞いたり匂ったり触ったりした、ぼくと、むじなと、ラフカディオの見聞録です。

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巻き戻してご返却下さい。-『僕らのミライへ逆回転』(Be Kind Rewind)

ぼくは大学時代、映画と映像を専攻していた。

 

大学を卒業して、就職活動なんてまったくしていなかったぼくが初めて働き出した職場は、たまたま紹介された超大手のテレビ関係、でもすぐにまったくもって呆れ果てて嫌になっちゃって、一年もしないで辞めちゃって、後先考えずに辞めちゃったもんだから途方に暮れて仕事を探していて、ふと見つけた仕事があった。

 

それは映画の輸入DVDを販売する店の仕事で、店は当時、今はもう取り壊されてなくなってしまったけど、某電気街の知る人ぞ知る名物ビルの中にあった。

 

そこでの仕事は、ぼくの今までの人生の中でも、ダントツに楽しく、そしてぼくに最高に適した仕事だったと、今にして思う。

 

昨日の夜更け、お酒を飲みながらふとそのことを思い返して、その店をネットで検索してみると、去年のちょうど今頃、店は閉店していた。理由は時代だと、そう書いてあった。

 

なんだか胸に詰まるものがあって、泣きそうになった。

 

ぼくの遅くに訪れた青い春は、完全にあの店にあった。あの数年間、大好きな映画に囲まれて過ごした日々が、どれだけ素晴らしかったかは、言葉では言い尽くせない。

 

まだまだ若くて、馬鹿で呑気で無鉄砲で、日々のちっぽけなことに一喜一憂していた頃のぼくは、今だってそう変わりはしないけれど、あの日々は、もう馬鹿を超越して、すっごく素敵だったと、今でも、そういう変わらない思いがある。

 

あの店で一緒に働いていた人たちは、今何をしているんだろうか。もう二度と会うことはないんだろうか。彼らの濃縮された記憶の中に、ぼくは果たして存在しているんだろうか。

 

トニー・スコットトゥルー・ロマンスって映画で、クリスチャン・スレーターが演じる主人公が働いているアメコミのショップのくだりが出てくる。

 

脚本はクエンティン・タランティーノタランティーノは映画を撮り出す前まで、長らく映画ソフトのショップで働いていたらしい。だから、あのディテールの細かな情景は、たぶんかつての自分自身を投影したものだと思う。

 

あの映画を観返す度に、ぼくも、自分が働いていたDVDショップの日々を思い出す。トゥルー・ロマンスほどはハチャメチャじゃなかったけど、あれに近いくらいはハチャメチャだったんじゃなかったっけ。

 

この話をした友人に、一本の映画を教えてもらった。

 

 

僕らのミライへ逆回転』(Be Kind Rewind)って映画、もしまだ観てなかったら、ぜひ観てよって、そう言われた。

 

原題の「Be Kind Rewind」は、レンタルビデオには付き物の言葉、「巻き戻してご返却下さい」って意味。

 

ぼくはレンタルビデオまっただ中の世代、大学の頃もまだまだビデオ全盛だった。あの頃の映画のビデオは、巻き戻して観て巻き戻してまた観てを繰り返している内に、磁気テープがダメになって、いつか観られなくなってしまう。ぼくたちの記憶も同じで、何度も何度も思い出している内に、いつか記憶が深い泥土に沈み込んで、いろんなことを忘れてしまって思い出せなくなる。

 

だから、まだぼくの記憶がクリアな映像を映し出している内に、あの日々を何度も何度も巻き戻して、楽しもうと、そう思った。

 

さて、暑い暑い真夏の空の下、教えてもらった映画でも借りに行こうか。だって今日は、いつかのあの日の空に少し、似てるような気がするからさ。

 

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今週のお題「映画の夏」

 

 

 

 

月白貉