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ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲が自らの感覚で日本を歩きまわって見聞を広めたように、故郷を離れて旅を続けるぼくが、ぼくの感覚でその土地を歩き回って、見たり聞いたり嗅いだり触ったりした、ぼくの見聞録です。

二日『神喰い』- 八月怪談 -

小説 小説-短編 八月怪談

朝起きると、居間のテレビの上に置いてある宝船の七福神がすべていなくなったと言って、祖母が騒いでいる声が階下から聞こえた。

 

「ミホさん、ミホさん、テレビの上の七福神さんが、みんないなくなってるけれど、どうしたのかしら!?」

 

町内会の旅行でどこか関西の方に行った際に、その町の骨董品屋で祖母はその七福神が気に入って連れて帰ってきた。いったい如何ほどの値段がしたのかは家族の誰にも話さなかったが、ずいぶんと古いものだと自分では言っていて、毎日毎日その船の前に、小さな七つの盃を置いて酒をつぐことを日課にしていた。

 

「いや、私は知りませんよ、お義母さんがどこかに片付けたのかと思ってましたけど・・・違うんですか?」

 

祖母は今にも泣き出すんじゃないかというようなクシャクシャの顔をして、けれど時々憤怒のような表情を浮かべながら、あたふたと家の中を歩きまわっている。

 

「どこにも片付けませんよ・・・片付けたって仕方がないでしょ!」

 

ぼくと妹が寝間着のまま二階から居間に下りてゆくと、祖母が縦にも歩ける蟹のようにしてどこに行くわけでもなく居間から応接間へ、応接間から台所へ、台所からまた居間へと、何度も何度も往復しているのとすれ違う。

 

「あんたたち、テレビの上の七福神さんを知らないかい?」

 

血走った目を見開いてこちらに覆いかぶさるように祖母が聞いてくるので、ぼくは一瞬言葉を失うが、「知らないよ・・・。」とだけ言葉を発して台所へと逃げるようにして祖母を振り払う。

 

「サヤちゃん、あんた知らないかい?」

 

ちらっと後ろを振り返ると、祖母がサヤに妖怪のように覆いかぶさっている。

 

「サヤね、弁天さんを食べたよ。」

 

「えっ!」と言って祖母が小さくなって居間の畳にしゃがみこんだが、同時にぼくも母も「えっ!」と声を上げてしまう。

 

「サヤ、食べたってどういうこと!?」と母が台所から走り寄って来て、サヤの目線に合わせて腰を落として手を握る。

 

「昨日の夜、おじいちゃんが七福神を食べてるの見てたらね、お前も食べてみなって言われてね、どれがいいかって言われたから、どれが甘いのかって聞いたらね、それは弁天さんだろうって言うから、それがいいって言って、食べたのね。すごく甘かったのね。他の七福神はおじいちゃんが全部食べちゃったけど、いっこ狸みたいなのがテレビの下に逃げてったよ。」

 

二日『神喰い』- 八月怪談 -

 

祖母はなんだか拝むように手を合わせて、ブルブルと震えながらサヤの顔を見つめている。

 

母がしゃがんでサヤの手を握ったまま、ぼくの方に目を向ける。

 

「おじいちゃんって・・・誰のことよ・・・?」

 

お題「怪談」

 

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