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ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲が自らの感覚で日本を歩きまわって見聞を広めたように、故郷を離れて旅を続けるぼくが、ぼくの感覚でその土地を歩き回って、見たり聞いたり嗅いだり触ったりした、ぼくの見聞録です。

第十三話『石神井公園の鬼』- 午前二時の、誰もいない階段の怪談 -

小説 小説-短編 小説-階段の怪談

この話はおそらく、真夜中の階段にまつわる怪談の十三話目くらいです。前の話を読みたい方は、以下のリンクから御覧ください。

 

 

占い師の老婆は、その日姿を現さなかった。

 

ユカさんの話だと、その老婆は石神井公園の一角に、ボロボロの小さな木製の丸テーブルと錆びついたパイプ椅子とともに何の予告もなく現れ、何の予告もなくどこかへ消えてゆくという。

 

どこに住んでいるのかも、どんな生活をしているのかも、果たして本当に占い師なのかも謎で、近隣の住民の間では半ば都市伝説と化し、様々な噂が飛び交っているらしい。姿を現す時間にはまったく規則性がなく、一日中公園内に座っていることもあれば、早朝だけだったり、夕暮れ時だけだったり、深夜だったり、あるいは長い間まったく姿を見せなくなることもあるという話だった。姿を現す場所も不規則で、公園内の様々な場所で目撃されていて、池の上に座っていたとか松の樹の上にいたとか、もはや幽霊の目撃談のような話まであったとユカさんは言った。

 

第十三話『石神井公園の鬼』- 午前二時の、誰もいない階段の怪談 -

 

「あたしが見てもらったのは三年くらい前なのよ。石神井公園の近くに住んでいる友だちからその話を聞いてさ、小野ってこなんだけど、小野はわたしが強い霊感があって悩んでることを知ってて、一度見てもらったらいいんじゃないって言ってね。じゃあ二人で行こうよってことになったの。」

 

「ユカにその話を聞いてさ、おれも興味があって、何度か友だちと石神井公園に行ってみたことあったんだけど、まったくいなくてさ、その婆さん。」

 

時刻は午後三時を少し回っていたが、太陽の猛攻は依然おさまる気配がなかった。石神井公園に向かう車の中でユカさんが、今日はなんとなくいるような気がするのよ、とそう言っていたのだが、三人で公園内を手分けして隈なく探しまわっても、老婆の姿はどこにも見当たらなかった。

 

「しかし今日はあっち〜な〜、自動販売機でなんか飲み物買って、ちょっとあそこの日陰のベンチで休むか。」

 

ダイキさんが目の前の大きな樫の樹の下にある古びたベンチを指差すと、突然ユカさんが「やばい!」と言って、ダイキさんの手を制止した。

 

「なに?どうしたの・・・?」

 

「なんかいる。あの樹の後ろになんかいて、こっちをみてる。ずいぶんヤバイやつだ、威圧感がすごい。あれは完全に人間の霊とかじゃない。」

 

ぼくとダイキさんは顔を見合わせて、二人とも同じように目を丸くする。

 

「どうしたら・・・いいですか?」

 

「いったん公園出てみよう。あれがどういうものなのかはちょっとかわらないけど、あたしたちを見てるのは間違いない。こっちの動きに合わせて近付いてくるのか、もしくはあそこにずっといるのか、害があるのかないのか、まずはそれ、確認しないと。」

 

三人は、何事もなかったかのような顔を装いスッときびすを返して、車の停めてある公園の駐車場に向けて歩き出した。樹の後ろにいる何かに背を向けた途端、気のせいかもしれないがずんと背中が重くなったような気がした。足早に歩いている途中に、ユカさんが何度かチラチラと後ろを振り返ったので、その度にダイキさんが「きてる?きてる?」と小声でユカさんに話しかけたが、ユカさんはそれに対して、まるでその声がきこえていないかのように、まったく何も応えなかった。

 

車まで到着すると、ぼくとダイキさんはいったいこの後にどんな行動をすればいいのかがよく分からなくなり、車を目の前にして立ち尽くしたまま、二人ともユカさんの顔を見つめている。ユカさんは公園の方を振り返ったまま、ピクリとも動かなくなる。しばらくして、ダイキさんがまた小さな声で「きた?」と呟いた。

 

「いや、きてないと思う。大丈夫だと思う。」

 

その言葉を聞いて、ぼくは一気に体中の力が抜ける。

 

「よし、じゃあ車乗って、ちょっとどっかで冷たいものでも飲もうか・・・。」

 

ダイキさんもぼくと同じように一気に力が抜けたようで、おかしな具合に顔が半笑いになっている。

 

お題「怪談」

 

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月白貉

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