ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲が自らの感覚で日本を歩きまわって見聞を広めたように、故郷を離れて旅を続けるぼくが、ぼくの感覚でその土地を歩き回って、見たり聞いたり嗅いだり触ったりした、ぼくの見聞録です。

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第十二話『桃と林檎』- 午前0時の、もっと誰かに読んで欲しい、本当は怖い階段の怪談 -

まだ前の話を読んでいない方、この話には前があります。まあ、もっと誰かに読んで欲しいんですが、普通の階段の話なんですよね。

 

 

「川ちゃん、今日この後予定はあんの?」

 

ユカさんは三階の事務所に用事があるからといって二階フロアの奥にある階段を昇ってゆき、ぼくとダイキさんは一階に降りてそのまま店を出た。店の自動ドアを出る直前、カウンターの加藤さんが「おつかれさまで〜す。」と言って、また笑顔で手を振っていた。

 

外に出ると、さっきダイキさんが言っていたようにずいぶんと暑い日だということに気が付いた。たくさんの不安要素が頭の中で複雑に入り乱れて絡み合い、ついさっきまでのぼくは、その日の暑さに気をかける余裕など微塵も持ちあわせてはいなかった。けれどユカさんの話を聞いていたら、ぼんやりとではあるが、ぼくの中で今戦うべき敵の正体みたいなものが浮かび上がってきた気がして、幾分かではあるが気が楽になり、何本かの糸は確実に解れつつあった。もちろん今抱えている問題のほとんどの部分はまだまったく解決などしていない。けれど、いつかどこかから襲い掛かってくるなにか、というまったくの盲目状態に怯えている時よりは、今はまだずいぶんとマシなような気がした。

 

改めて空を仰ぐと、その光は、肌が焼け焦げて目が潰れそうになるくらいの熱で、ぼくたちを睨みつけていた。けれど、それが心地よかった。今まさに夢から覚めた時のような気分で、少し心地よかった。

 

「いえ・・・、今日は特には予定はないです。」

 

「立て続けにいろいろあったから、きょうはアルテミスの夜の営業は休むそうなんだ。で、この後さ、ユカがさっき言ってたあの占い師の婆さんに会いに行くって言うんで、オレも一緒にいくんだけど、川ちゃんも行かない?もしかしたら、何かいろいろわかるかもしれないしさ。」

 

「あっ、ほんとですか。はい、いきますいきます!」

 

「オッケー、じゃあ、ユカが用事終わるまで待っとかなきゃいけないから、おれちょっと買いたいものあるんで、それ付き合ってくれるかな。」

 

「はい、いいですよ。」

 

「よし、じゃあ行くか。」

 

二人は車に乗り込んだ。日向に停められていた車の中は、新装開店のサウナのような異常な暑さだった。

 

「何を買いに行くんですか?」

 

「あ〜、猫のトイレのやつ、砂みたいなやつな。」

 

「あ〜。」

 

「川ちゃんは、猫飼ったことあるの?」

 

「いや、ぼく自身が世話役として飼ったことはないです。昔まだ小さい頃、実家に猫がいたことは覚えてるんですが、あんまり明確な記憶じゃないし、正直名前くらいしか覚えてないんですよね。古いアルバムを見ると、猫と一緒に写っているぼくの写真は貼り付けてあるんですが、その程度です。」

 

「なんて名前だったの?」

 

「ビスケットです。たぶんメスです。」

 

「へ〜、ビスケットか、可愛い名前だな。うちのはモモとリンゴ、オスとメス。」

 

第十二話『桃と林檎』- 午前0時の、もっと誰かに読んで欲しい、本当は怖い階段の怪談 -

 

「どっちがオスの名前ですか?」

 

「ははは、そうだよな、どっちもメスみたいだけど、モモがオスだよ。ユカが付けたんだけど。」

 

「可愛い名前ですね。」

 

「モモは真っ黒で、リンゴは真っ白なんだよ。種類はよくわかんないけど。あの家で暮らし始めてすぐの頃さ、ある日玄関の目の前に二匹の子猫が入ったダンボールが置かれててさ・・・、目の前だよ目の前、もうほとんど玄関にって感じだよ。捨てたのかなんだか知らないけどさ、ありゃ届け物のレベルだろ。放っとくわけにもいかないし、その日からウチで飼うことにしたんだよ。」

 

「へ〜。」

 

「くっついて寝てるとさ、あれみたいなんだよ、なんだっけ、あの陰と陽の白黒のやつ、なんだっけ。」

 

「あ〜、太極図でしたっけ。見てみたいなあ。もう変な渦取れてるから、今度ダイキさんのウチ行ったら出てきてくれますかね?」

 

「ははは、おれのも取れてるからな。出てきてくれるだろ、きっと。つ〜かさ、あの話怖すぎだろ。何だよ渦って・・・。」

 

「ホントですね・・・怖すぎです・・・。」

 

お題「怪談」

 

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月白貉