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ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲が自らの感覚で日本を歩きまわって見聞を広めたように、故郷を離れて旅を続けるぼくが、ぼくの感覚でその土地を歩き回って、見たり聞いたり嗅いだり触ったりした、ぼくの見聞録です。

第十話『魔のもの』- 午前0時の、本当は誰かが読んでいるらしい、普通の階段の怪談 -

小説 小説-短編 小説-階段の怪談

まだ前の話を読んでいない方、この話には前があります。まあ、誰かしらが時々読んでいる程度の、普通の階段の話ですがね。

 

 

ダイキさんが「飲み物持ってくるわ、川ちゃん何がいい?」と言ったので、ぼくは「じゃあ、ジンジャーエールでお願いします。」とこたえると、ダイキさんは「オッケー、ユカは烏龍茶でいいんだろ。」と言いながら部屋を出て行った。ユカさんは何も言わず、石のように固まって部屋の何もない場所を見つめていた。ソファーの背にもたれたままじっと動かず、能面のような顔をしている。

 

「ちょっと、聞いてもいいですか。」

 

ユカさんの表情が元に戻って、ぼくに目を向ける。

 

「うん。」

 

「このビル・・・、何かその、霊的なものがいるってことですか?」

 

「うん・・・。正直あたしもね、あれが一体何なのかってことは、よくわかんないけど。前にも話したよね、けっこう強い霊感みたいなものがあるのよ。それが霊感なのかどうかはわかんないけど。もっと若い頃は、それこそ子供の頃なんかは今の比じゃなくてさ、一体誰が人間で誰がそうじゃないのかってこともよくわかんないくらいに、普通にいっぱい見えるんだよ。だって、例えば小さい頃に豊島園なんかに連れてってもらうと、人だらけじゃない。だからわかんないのよ、どれが人間じゃないものかって・・・。それぐらい、いっぱいいるのよ。生きてる人間に見えるけど、たぶんあれは違うなってものが。ただね・・・。」

 

「はい・・・。」

 

「時々明らかに、人間じゃないって言っても、死んだ後の霊とかそういうのじゃなくて、えっと、なんて言えばいいのかな、まったく別のものもいるんだよ。見た目で言えば、例えば人の形なんだけどすっごい大きかったり、逆にすっごく小さい妖精みたいなものだったり、それこそ漫画とかで描かれている気持ち悪い妖怪みたいなものだったり、あとはね、ただモヤモヤして渦を巻いてる黒い影みたいなものだったり、ほかにもいろいろ、山ほどいるんだよ・・・。」

 

「えっ・・・、ほんとですか・・・。いったい何なんですか・・・それって?」

 

「わからない。でもすっごく怖いんだよ、そういう別なやつは。幽霊が怖いとかそんなレベルじゃないんだよ。普通の人間の霊みたいなものはさ、別にほっとけば向こうから何かしてくることって少ないんだよね。でもね、例えばあたしが旅行先の古い神社でみたやつで、巨大なクマみたいなやつとかはさ・・・。」

 

「えっ・・・クマ?」

 

第十話『魔のもの』- 午前0時の、本当は誰かが読んでいるらしい、普通の階段の怪談 -

 

「うん、毛の生えてないクマみたいなもので、三メートルかもっとかな、あっ、鬼みたいって言ったほうがわかるかな。それはさ、周囲にいる他の霊をだと思うんだけど・・・捕まえて食べてたりするんだよ・・・目の前で・・・、これ、今、真剣な話だからね・・・。」

 

ダイキさんがトレーに飲み物をのせて部屋に戻ってきた。

 

「つい最近まで、本当にそういうものが当たり前に見えてた。あたし頭がオカシイのかもしれないって、すごく悩んだこともあった。脳に何かの障害があるんじゃないのかって。でもね、一度、あたるって評判の占い師に、それはまあ友だちと遊びでね、見てもらいに行ったことがあるんだけど。そのすっごい年寄りのおばあさんに、あんたすごいねえって言われて。化け物が見えるんじゃないのかいって、部屋に入るなり、いきなり言われてさ。

 

化け物ってなんですかって聞いたら、」

 

「そうねえ、わしにも若い頃そういうものが見えてねえ。昔はそんなこと言うと、病気だの憑物だのって周りに怖がられたり避けられたりするから、親に言っても嘘をつくなって怒られてねえ。そういうものが見えて、怖くて怖くて、でもずっと黙ってたけど、わしの爺さんが祈祷師やってて、おまえ鬼が見えるだろって、そう言うから、あれは何だって聞いたら、あれは鬼だって、魔のものだって言ってね。ずっと昔っからいて、人間よりもずっと昔っからいる、神みたいなものだけれど、あれは人間を助けたり守ったりするものとは、また別のものだって、教えてくれたんだよねえ。あんたそういう鬼が、見えるでしょ。動物と人が混じったみたいなものだったり、おかしな鎌持ったでっかい影だったり、真っ黒い渦の塊だったりさ。」

 

お題「怪談」

 

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月白貉

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