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ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲が自らの感覚で日本を歩きまわって見聞を広めたように、故郷を離れて旅を続けるぼくが、ぼくの感覚でその土地を歩き回って、見たり聞いたり嗅いだり触ったりした、ぼくの見聞録です。

第四話『窓から覗く影』- 午前0時の、誰も読まないであろう、普通の階段の怪談 -

小説 小説-短編 小説-階段の怪談

まだ前の話をお読みいただいていない方、この話には前があります。いまは午前10時、陽も高々と上がっている時間ですから、もうすでにお読みのことと思いますがね。

 

 

店の入口の前の道路には、ユカさんのお父さんが所有している黒のワンボックスカーが横付けして停められていた。

 

バックパックのサイドポケットから携帯電話を取り出して表示板に目を向けると、午前三時を少し過ぎていた。そして一件の着信履歴が残っていた。ぼくはそこで「あっ!」と声を上げてしまう。着信は小林くんからのものだった。

 

「どうした?」と言って、ダイキさんが振り返る。

 

気が動転してよくわからなくなっていたのだが、ぼくは一番大切なことを二人に言い忘れていた。

 

「小林くんが!小林くんが一緒に部屋にいたんです!一緒にいたんだけど・・・。」

 

「えっ!そんなことないでしょ・・・?ちょっとまってよ・・・。」

 

ユカさんがポケットから携帯電話を取り出して表示板を確認している。

 

「さっき店であたしが電話かけてたのは、小林くんだよ・・・。着信が入ってたの気が付いてなくて、店には川田くんしかいなかったし、だから電話して何があったのかって、聞いてたんだよ・・・。」

 

「ユカ、話は後にしよう、もう行くぞ、ちょっとあれ、いよいよ様子がヤバイから、もうここ、危ないだろ。」

 

ダイキさんが店のビルの上を見上げている。

 

三階の窓の暗闇の中に、明らかに人影のようなものがこちらを見下ろしているが、見えた。

 

第四話『窓から覗く影』- 午前0時の、誰も読まないであろう、普通の階段の怪談 -

 

ただそれは、人のような形をしているというだけで、実際は何かモヤモヤとした煙のようなものだった。三階の窓は曇りガラスではない。もし人が覗いていたのなら、あんなに輪郭の揺れ動いた煙のようなものではなく、いくら暗闇だとしても、明確な人の輪郭をした影が見えるはずだった。ぼくは怖くなってすぐにそれを見るのをやめた。

 

ダイキさんとユカさんは、険しい顔をしてその三階の窓の何かを睨みつけている。

 

「川田くん、車乗って、行くよ。小林くんのことは帰ってから話そう。ここにはもう、小林くんはいないよ。」

 

車の後部座席に乗り込んでから、もう一度だけチラッと三階の窓を見上げると、影はもう、そこにはなくなっていた。次の瞬間ダイキさんが車を急発進させたので、ぼくは「うわっ!」と声を上げて仰け反ってしまう。バックミラー越しに目があったダイキさんが、「ごめん。」と言って笑顔を浮かべた。

 

携帯電話の表示板に目をやると、03:32という時刻が浮かび上がっていた。夜が明けるまで、太陽が目覚めてこの世界の闇を追い出すまで、それまでにはまだずいぶん時間があった。ぼくは車の後ろから何かが追ってきやしないかという激しい不安から、リヤガラスの方に何度も振り返った。バックミラー越しにその様子を見ていたダイキさんが、笑った。あんなに非日常的な光景を目にしたはずなのに、ダイキさんもユカさんも、ずいぶんと落ち着いている。

 

「川ちゃん、心配すんなよ、ついてきてないよ。もしついてきてたら、ユカがすぐにわかるから、大丈夫。」

 

「ついてきて、ないですか・・・そっか・・・。」

 

いまぼくは、悪夢のどの辺りを彷徨っているのだろうか。いまこの瞬間が、この悪夢の最終地点であることを、願っていた。

 

お題「怪談」

 

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