ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn)が、自らの感覚で古き日本を歩きまわって独自の感性で見聞を広めたように、遠く故郷を離れてあてどなき夢想の旅を続けるぼくが、むじなと、そしてラフカディオと一緒に、見たり聞いたり匂ったり触ったりした、ぼくと、むじなと、ラフカディオの見聞録です。

follow us in feedly

追伸、火花スパークス

「さっきさ、つっちゃん、又吉の火花、立ち読みしてたでしょ。どんなふうだった?」

 

店長は、三枚持っているから買わないと言っていたグリーンマイルのDVDを何故か一枚しっかり買っていて、ずいぶん気分が高揚しているようだった。

 

「読んだって言っても、冒頭のちょっとしか読んでないから、まったくどんなふうかなんて、言えませんよ。でも結局小説って、始めの何行かで、その隙間に吸い込まれない限りは、後は読めませんよね。それってたぶん相性だと思うんだけれど、どんなに誰かの評価が高くても、それはまた別の話で、入り込めない隙間だと感じたら入れないんですよね。理由はよくわからないけれど、自分には狭すぎるとか、なんだかベトベトしてて気持ち悪いとか、下水みたいな臭いがして耐えられないとか、もっと純粋にただ無理だとか。なんか嫌な例えばかりだけれど、そういうふうに感じた小説は、最初の一行だけでも、そう感じた時点で、すぐに手放しちゃうから。だからそういう意味で言えば、一行読んだら吸い込まれそうになっちゃいましたよ、火花は。店長、実写版を観たって言ってましたよね、どうでしたか、火花の実写版は?」

 

f:id:hatenablog:20160713103719j:plain

 

その日の天気予報は曇りだったけれど、天気予報が曇りという場合に限って言えば、九十七パーセントくらいは晴天になるか、あるいは真逆の大雨になるかだと、ぼくはいつも思っていた。そしてその日はどんなに手の長い猿でも届かないような、果てまで突き抜ける青空の、百パーセントの晴天だった。

 

「う〜ん、つっちゃんの理論で言えば、まあおれも一話しか観てないけど、ちょっと吸い込まれたよ。まあ基本的におれ、外国の映画しか観ないし、ネットでドラマを観るっていう習性がないからさ。テレビなんてまったく観ないし。あのサービスに入ってるのも厳密にはサツキ先生だし、たまたま一緒に観たってくらいのことかな。ん〜、主人公がカッコいい。有無を言わさず、カッコいい。サツキ先生も同じこと言ってた。えっと、トクミツだっけ?主人公の名前、トクミツだよな。それが、一話だけしか観ていない、おれの感想かな。サツキ先生は全部観たらしいけど。」

 

「トクミツでしたっけ・・・?ぼく予告編だけ観ましたよ、トクナガですよね。」

 

「あ、トクナガね、そうだ、トクナガね。ごめん。でもさ、外国の映画でもそうだけど、主人公がカッコいいってことは、すっごく重要だと思う。カッコいいの定義は人それぞれだと思うけどさ、なんかあるじゃない、そういう理屈じゃないカッコいいってやつ。」

 

「はい、なんとなくわかります。サツキさんは全部観て、なにか感想を言ってましたか?」

 

「トクナガが、トクナガね、トクナガがカッコいいって、言ってた。」

 

店長は、トクナガと発音する場面で何故か、ぼくの肩に何度も裏手でツッコミを入れた。

 

「そうですか、トクナガ、カッコいいんですね。そっかあ、じゃあ小説読む前に、実写版を観てみたいなあ。」

 

「おっ、じゃあ今からつっちゃん、ウチで、酒飲みながら観るか!」

 

Netflix火花お題「ドラマ火花の感想」

Sponsored by Netflix

 

 

 

 

 

月白貉