ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲が自らの感覚で日本を歩きまわって見聞を広めたように、故郷を離れて旅を続けるぼくが、ぼくの感覚でその土地を歩き回って、見たり聞いたり嗅いだり触ったりした、ぼくの見聞録です。

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図書館に行ったら、「ブタメン」のカップが深海仕様に圧縮されていた。

久しぶりに図書館に本でも読みにゆこうと思って、雨上がりの涼しげな風に吹かれながらフラリと出かける。

 

きょうは一日中曇りという天気予報だったが朝から雨。もう止んだと思っての外出だったのだが、まだ幽かに雨が降っている。しかし風が強いため空気は思いのほか心地よい。

 

図書館に到着して、しばしあてもなく書架の間をウロウロして、ふと目についた稲垣足穂を手に取り、川に面した窓際のソファーに腰を下ろす。外ではジージージージーと蝉が鳴いていて、窓に映る緑がワサワサと揺れている。目の前の窓を開けたら気持ちがよかろうと思ったが、館内は冷房中で窓は開けられない。こんな日は冷房などよりも、風に頼るのがいいだろうに。

 

足穂を開くと、お月様だのほうき星だの流れ星だのの話がループしている。時々、もう夜になっただろうかと錯覚して窓の外に目を向けると、スローモーションのように緑が揺れている。また足穂を読みだすと、夜の話ばかりで今は夜かと思う。窓の外を見ると、灰色の空を背に緑が左右にフンワリと流れている。そんなことを繰り返していたら、なんだか急激に睡魔に取り巻かれてしまって、眠ってしまった。

 

しばらくして、館内で携帯電話のおかしな着信音が鳴り響いたことで目を覚ます。どうやら三十分ほど眠っていたようなので、何やら体がモヤモヤして気持ちが悪い。風の中ならこんなことはないだろうに、冷房のせいだろう。

 

眠気を覚ますために、きょうは読書はあきらめて図書館を後にしようとすると、図書館の入口付近の展示コーナーに、カップ麺のカップが、展開されたマトリョーシカの如き状態で並べられている。

 

水圧で圧縮された「ブタメン」のカップである。

 

図書館に行ったら、「ブタメン」のカップが深海仕様に圧縮されていた。

 

どうやら深海にテーマを定めた特設図書紹介コーナーが期間限定で設置されているようで、潜水艦の本やダイオウイカの本や本物の深海魚や、そして圧縮されたブタメンのカップなどが展示されている。保守的な図書館にしては、なかなか斬新な展示である。

 

ブタメンに添えられた説明書きに目をやると、

 

水の中では10m潜るごとに1気圧の水圧が増えていきます。水深5,000mでは、501気圧もの圧力がかかり、「しんかい6500」の訪れる水深6,500mでは、681気圧(1㎠あたり681kg)の力がかかります。

 

発泡スチロールでできた容器は、隅々まで一様にかかる水圧により、中に含まれている空気が押し出され、形をほぼ保ったまま縮小します。

 

と、そう書かれている。

 

水深5000mで受ける水圧(500気圧)は、指先にお相撲さんが4.2人乗っているほどの圧力ということ!

 

と、別途添えられたプレートには書かれているが、こちらは大いに意味不明である。

 

図書館に行ったら、「ブタメン」のカップが深海仕様に圧縮されていた。

 

子供向けにと気遣って書かれているのだろうが、「お相撲さんが指先に4.2人乗っているほどの圧力」と言われて、それを想像できる子供が果たしてこの宇宙に何人いるのだろうか。

 

まず前提として、日常的にお相撲さんが指に乗るというシチュエーションが存在しない。蟻や雨ガエルやインコならまだしも、なぜお相撲さんにしたのか。ブタメンに擬えたのかもしれないが、ならばブタにするべきだろう。間接的にお相撲さんをブタだと言っているようで、考え様によっては非常に失礼で差別的なコメントにも見受けられる。しかも0.2人という分が存在していて、もはやお相撲さんは肉塊の扱いである。

 

そしてさらには、プレートにはお相撲さんの体重を120kgと定めてしまっているのだが、日本相撲協会にそんな規定はないハズである。お相撲さんと言われても様々、新弟子検査で言うならば体重は67kg以上ということになっているし、上限があるとは聞いたことがない。最重量時のコニちゃんこと小錦八十吉の体重が285kgあったというから、振り幅が大きすぎて数値的にまったく正確ではないじゃないか。「コニちゃんが指先に云々・・・」と書かれているならまだしも。一体誰が、水圧を指先に乗るお相撲さんに例えようと言い出して、誰がその提案を採用したかが甚だ疑問である。

 

まあお相撲さんの話はぐっと堪えて飲み込んで、さておき、本題であるブタメンにはずいぶん心を奪われる。よくこれだけ綺麗に圧縮されるものだなあと言うのが正直な思いである。ブタメンのミニサイズを商品展開する際には、コスト削減のためにもカップの製造は固定のワンサイズだけにして、水圧装置か、あるいは深海工場でのサイズ調整が必須になってくるだろう。これを見られただけでも、きょう図書館に足を運んだ価値があったと思って、非常に満足して、眠い目をこすりながら図書館を後にしたのであった。

 

外に出てからしばらくして、ブタメンを食べたことがないなあということに気が付く。カップヌードルは食べたことがあるが、ブタメンはない。

 

さらには、なぜ水圧実験にブタメンが選ばれたのかということに思いは流れてゆく。

 

 

カップヌードルのカップも、たしか発泡スチロールだった気がするが、カップヌードルの類を食べなくなって久しいので、現在の状況を知り得ないからなんとも言えない。カップヌードルのカップは今や発泡スチロールではないのかもしれない。

 

あるいはやはり先ほどのお相撲さんと関係があり、水圧とお相撲さんの関係ありきのブタメンチョイスなのだろうか。

 

まあそんなこんなで、こうなってしまっては今日の夕飯はブタメンにしなければ気が収まらないだろうから、いまからブタメンを入手しがてら、カップヌードルのカップが発泡スチロールか否かを確認しに、買い出しにでも出かけよう。

 

しかしいろいろな意味で、なんとも見応えのある深海特設コーナー、さらには圧縮ブタメンであった。

 

今度はブタメンではなく、お相撲さんを使って水圧実験を行ってほしいものだと、切に願っている。

 

お題「今日の出来事」

 

 

 

 

月白貉