ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn)が、自らの感覚で古き日本を歩きまわって独自の感性で見聞を広めたように、遠く故郷を離れてあてどなき夢想の旅を続けるぼくが、むじなと、そしてラフカディオと一緒に、見たり聞いたり匂ったり触ったりした、ぼくと、むじなと、ラフカディオの見聞録です。

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銀幕フロントライン

お客が五人しかいない映画館で、前から三番目の列の中央に座り、靴を脱いでじっくりと映画を観る。

 

映画館で、ひとりで映画を観るのは何年ぶりだろう。

 

チケットを購入する際に最前列の席を希望すると、「小さな劇場ですので、見上げる形になりますが・・・」と、チケット販売のスタッフに制止される。スタッフの意図としては、ガラガラなのになぜそこに?なぜそんな前に?という、あるいはあれは教育的指導だったのかも知れないが、映画館で働いている人間にしては、あまりにも非魅力的な行動だ。

 

「う〜ん、じゃあここで。」ちょっと考えて最前列ではなく三列目を選択。でも映画館の醍醐味は最前列だとぼくは常々思っている。実際に三列目に座ってみたらおそらく最前列でベストな雰囲気。ぼくの前の列には誰ひとりいないし、館内を見回す振りをしてそっと人数を数えてみたら、やっぱり全部で五人しかいないので、勝手に最前列に行くことも最後列に行くことも出来たが、でもそこは自分の申請を貫いてみる。

 

最前列が醍醐味だと言いつつも、本当に最前列で映画を観た経験は、よく考えると数えるほどだった。

 

印象に深く残る最前列がある。

 

ずいぶん昔、当時好きだった女の子を誘って、新宿の小さな映画館で観た映画。

 

テレンス・マリックの「シン・レッド・ライン」。

 

劇場は超満員で仕方なくの最前列。手の届く位置にスクリーンがあり、縦横無尽に首を動かしながら鑑賞する。よい映画だった。オープニングから心を鷲掴みにされた記憶がある。隣に座っている女の子のことなんかすっかり忘れていた。

 

映画ってそういうものだ。

 

あの映画館は、おそらくもう、なくなっていると思う。

 

 

 

 

 

月白貉