桜の花の下から人間を取り去ると怖ろしい景色になりますので - 『桜の森の満開の下』(坂口安吾) -
昨日の夜から雨が降り出し、今朝起きてみても雨がシトリシトリと落ちている。
これではもう桜も雨に打たれて落ちてしまっているだろうなあと思いながら、朝ごはんを食べて茶を飲み、薄暗い窓の外を眺めてみる。
今朝は、白米にワカメの味噌汁、大根と人参のぬか漬け、からし菜の塩漬け、ネギが入った甘くない卵焼き、数日前に近所の魚屋で買ってきたホタルイカの煮付け。
ホタルイカの煮付けは晩酌の肴にチビリチビリとつまんでいたが、日が経ちすぎて傷んだらいけないと思って今朝のおかずに出してみた。煮てあるから大丈夫だろうと思っていたホタルイカがしかし、腐る寸前の味わい、今この文章を書きながら、やや腹具合と胸具合がよろしくない。
さて、これからちょいと野暮用を済ましに外出するため、そのついでに桜の木の下でも歩こうかと思いつつ、ちょっとその前に一筆。
先日、桜について梶井基次郎の「桜の樹の下には」を冒頭で引用しながら思うところを綴った投稿に、ふにやんまさんから以下の様なコメントを頂戴した。
坂口安吾の本は一冊ほど持っていたが、この「桜の森の満開の下」というのは、どこかで冒頭だけ読んだことがあるくらいで、題名ほどしかしらなかった。というわけで、よい機会なのでさっそく読んでみることにした。
とても短い文章なので、いまさっき、朝ごはんを食べた後に茶をすすりながら読み終えたのであるが、これもやはり、花を満開にさせた桜の木が怖ろしいという話で、不気味で妖艶で物悲しいが、しかし透明感のある綺麗な余韻やら後味を残すものであった。
この話に登場する山賊に、なにやら自分を投影して読んでしまった感があって、一度気分が落ち込んだが、やはりこの後、雨の中、桜を見にゆこうという思いが強くなった。
総じてなかなか素晴らしい短編である。
さて、そろそろ出かけなければいけないが、外では風が唸りを上げている。桜は散々と舞い散っているだろうか。
では、「桜の森の満開の下」から一節。
桜の森の満開の下の秘密は誰にも今も分りません。あるいは「孤独」というものであったかも知れません。なぜなら、男はもはや孤独を怖れる必要がなかったのです。彼自らが孤独自体でありました。
月白貉