ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn)が、自らの感覚で古き日本を歩きまわって独自の感性で見聞を広めたように、遠く故郷を離れてあてどなき夢想の旅を続けるぼくが、むじなと、そしてラフカディオと一緒に、見たり聞いたり匂ったり触ったりした、ぼくと、むじなと、ラフカディオの見聞録です。

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二番目の男

「私は、何かに立ち向かえているのでしょうか・・・、それ以前に、私はいったい何に立ち向かっていたのでしょうか・・・、こんな出鱈目な存在が、いまの世界を掌握しているのですか・・・」

 

浦島さんが自らの手だけでねじり切った「セカンド」と呼ばれるその男の首は、

 

首だけになってもずいぶん長い間、ぼくには理解出来ない異国の言葉を叫び続けていて、そして言葉を発する度にブハブハと口から複数の色味を持つ血を吐き出しながら笑っていたが、いまはもう目を見開いたまま動かなくなっていた。

 

いまのぼくはそんなすさまじい光景にも、もはや吐き気など覚える余裕もなかった。

 

「何を叫んでいたんですか・・・、ぼくにはまったく聞き取れない言葉でした。」

 

「おそらくそれを知っても何も得るものはないでしょう。私に対しての呪いの言葉を、楽しそうに吹き鳴らしていただけです。はじめてラッパを与えられた子どもが、その吹き方も知らないままにただやたらめっぽうに吹くことがあるでしょう、あれと同じことです。おおよそ、その言葉に意味はありません。まあ簡単に言うなれば、」

 

浦島さんはその首を片手だけで地面に押し付けると、熟したトマトでもつぶすように一瞬にして粉々にしてしまった。

 

彼の顔にも、そしてぼくの顔にも、その男の欠片が飛び散り、周囲に異様な腐敗臭が漂った。

 

「まあ、簡単に言うなれば、」

 

浦島さんは地面の何もない場所の一点を見据えて、言葉を続けた。

 

「バ〜カ、ウンコタレ、お前なんか死んじゃえ・・・と、ずっと叫んでいたのですよ。」

 

ぼくと浦島さんの背後ですさまじい奇声があがり、浦島さんの手を逃れた兵隊の残党数名が暗闇の中へ走り去ってゆくのが見えた。

 

「おっと・・・、潰しそこねた子どもたちがいました、私もずいぶんと焼きが回ったようですねえ、さて、急ぎましょう。残すは、あの男と、女王システムのみです。白酒さん、いま再びお聞きします、私についてこられますか?」

 

もう暗闇は怖くなかった、そこに何が隠れていようとも、何がぼくの体にのしかかってこようとも、何がぼくの手足にかぶりついてこようとも、ぼくはもう、微塵も怖くはなかった。

 

「はい、ついてゆきます、もちろんでしょう。いまさらですか?」

 

浦島さんは口を開き、犬歯を光らせて笑った。

 

「上等です、参りましょうか。」

 

 

 

 

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月白貉