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ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲が自らの感覚で日本を歩きまわって見聞を広めたように、故郷を離れて旅を続けるぼくが、ぼくの感覚でその土地を歩き回って、見たり聞いたり嗅いだり触ったりした、ぼくの見聞録です。

笑顔

小説 小説-吸血鬼

「浦島さん、この装置に入る前にあなたに言いたいことがあります。」

 

施設の外からは依然として男女入り乱れた悲鳴のような怒号のような声が絶え間なく響いてきていた。

 

「さてなんでしょうか、あまり雑談を交わしている余裕はありませんが、お聞きしましょう。」

 

浦島さんは両腕を頭上に高々と掲げて伸びをして、「ふあ〜っ」という大きなアクビの後に満面の笑みをぼくに向けた。

 

「浦島さん、ぼくはあなたに出会って、多くのことを学びました。いままでの長い年月に無理矢理に詰め込まれたものではなく、ぼくが自ら学ぼうとしたものでもなく、おそらくは、あなたからでしか学べないことをです。」

 

浦島さんは首を横に何度か振った。

 

「人間が学ぶということはそもそもないのです。

 

人間は生まれた時からずっと、生物としてのある決められた事柄をすでに持ち合わせています。誰かから何かを教わることなく、生きてゆく術を持ち合わせているのです。だから例えば文明のもたらす教育などというものを受けなくても、自らが持つ力だけで生きてゆけるようにつくられています。太古の昔は当たり前だったことですが、人々はそういうものを捨て去ってしまった。捨て去ったものは無視して、人間はまったく無駄なことを学んでいる、自分たちを滅ぼすやり方を、学んでいるのです。なんとも滑稽なことです。もちろん、私自身、このような身になったからこそ理解できたことですが、多くの人々はそのことを知らない。あなたは知っているかもしれないが、世界は狂っている、ということですよ。」

 

ぼくが「でも・・・」という否定の言葉を発すると、浦島さんは再び首を大きく横に振った。

 

「白酒さんのお気持ちは十二分に頂きましたよ、あなたを否定しているわけではないのです。ただ、いまさらあなたが私に気を使って、私があなたに気を使うような関係でしたか、わたしたちは。」

 

浦島さんは、ぼくに背を向けて操作パネルに手を伸ばした。

 

「まってください、ありがとう、と、そう言いたかったのです。ぼくは今の今まで、ありがとうという言葉の意味も、そしてその使い方さえも間違っていました。ありがとうは、最後の最後に使う言葉だと、ぼくは今あらためて理解しました、だから・・・」

 

振り返り様に「ありがとう。」と先に言ったのは浦島さんだった。

 

「白酒さん、もうあなたがそれをいう必要はなくなりました。もう雑談はおわりです、多くを学んだのはあなただけではなくわたしもだからです。もしあなたがその言葉を言いたいのであれば、最後の最後にしてください、そう理解したのであれば。その時は甘んじて、その言葉をお受けします、今はまだ、最後ではありませんからね。」

 

 

 

 

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笑顔のおくりもの

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月白貉

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