ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn)が、自らの感覚で古き日本を歩きまわって独自の感性で見聞を広めたように、遠く故郷を離れてあてどなき夢想の旅を続けるぼくが、むじなと、そしてラフカディオと一緒に、見たり聞いたり匂ったり触ったりした、ぼくと、むじなと、ラフカディオの見聞録です。

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優先席

ウィークデイの昼過ぎ、空いている列車に乗り込み、ふと車内を眺めると、座席にはまばらに人が座っているほど。

 

灰色のシートに包まれた優先席には誰も座っていない。

 

だから、優先席に座ってみる。

 

誰も座っていないのだから、気兼ねなく、ただ少し気兼ねをして座ってみる。いつ、優先せねばならぬ人が乗ってくるのかと、気が気ではない。気兼ねなくとは言ってみたものの、少しの気兼ねをしてとは思ってみたものの、気が気ではない。

 

だったら、座らなければよかろうと思い立ち、すぐさま立ち上がって、ガラガラの列車のドア脇のポールの当たりに体を落ち着ける。

 

優先席は、いまは遠い異国の駅の待合室のように、ひっそりとしている。

 

窓からは、長方形の日差しが幾筋か、その緩いカーブを描いた灰色の表面に差し込んでいる。

 

優先すべき人の影は、いまだ見当たらない。

 

でも、そのくらいがよかろう、そして優先すべき人が乗り込んでくる様を思い浮かべてみる。

 

なぜ、多くの人が、そんな容易いことができぬのだろうと、まことに不思議でならない。思いやりとは、空想の域である。想像の域である。そこに自らの血肉を注ぐ必要など微塵もない。自らの手足を切り落とす必要もなければ、腹をさばく必要もない。

 

ただ、思いをめぐらせればよい。

 

優先席には、まだ誰も座ってはいない。

 

誰も座っていない優先席が、ぼくの方をぼんやりと見つめている。

 

 

 

サインのコイケ 店舗小型・サインプレート 優先席

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サインのコイケ テーブルサイン 優先席

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もし僕が電車内の迷惑客だったら・・・

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優先席

優先席

 

 

 

 

 

 

月白貉