モリクマ
「いちど、おおきな森にでもお住みなさい。そうすればきっと、もっとゆたかになります。」
クマは言いました。
いつものように、公園のシーソーの片側に座っているクマに会釈をすると、クマも軽く会釈をして、ぼくのところまでゆっくりと歩いてきました。
「つかぬことを伺いますが、どこかおからだの加減でも悪くされましたか?」
「いえ、そんなことはないです。ただ、最近ちょっと気分的にというか、精神的に疲れているようで。」
「病は気からと、先人は言っております。」
クマは空を仰ぎ見て何かを指差しましたが、ぼくにはそれがなんなのかはわかりませんでした。
「何か気持ちの疲れをとるよい方法がありますか?」
「いちど、おおきな森にでもお住みなさい。そうすればきっと、もっとゆたかになります。」
「ゆたかになりますか?」
「ええ、もちろんです。違う味の蜂蜜のどちらから食べようかと悩むことくらいしか、悩みは無くなります。」
「森はさみしくありませんか?」
「ええ、もちろんさみしいです。さみしいときは、さみしいのですよ。そして、たのしいときはたのしいのです。それが森です。」
「それが森ですか。」
「ええ、もちろんそれが森です。」
そう言って、クマはまた空にある何かを指差しました。
今のぼくには、その指差す先にある何かをまだ見ることができないのでした。
- 作者: ヘンリー・D.ソロー,Henry D. Thoreau,今泉吉晴
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月白貉