ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn)が、自らの感覚で古き日本を歩きまわって独自の感性で見聞を広めたように、遠く故郷を離れてあてどなき夢想の旅を続けるぼくが、むじなと、そしてラフカディオと一緒に、見たり聞いたり匂ったり触ったりした、ぼくと、むじなと、ラフカディオの見聞録です。

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モリクマ

「いちど、おおきな森にでもお住みなさい。そうすればきっと、もっとゆたかになります。」

 

クマは言いました。

 

いつものように、公園のシーソーの片側に座っているクマに会釈をすると、クマも軽く会釈をして、ぼくのところまでゆっくりと歩いてきました。

 

「つかぬことを伺いますが、どこかおからだの加減でも悪くされましたか?」

 

「いえ、そんなことはないです。ただ、最近ちょっと気分的にというか、精神的に疲れているようで。」

 

「病は気からと、先人は言っております。」

 

クマは空を仰ぎ見て何かを指差しましたが、ぼくにはそれがなんなのかはわかりませんでした。

 

「何か気持ちの疲れをとるよい方法がありますか?」

 

「いちど、おおきな森にでもお住みなさい。そうすればきっと、もっとゆたかになります。」

 

「ゆたかになりますか?」

 

「ええ、もちろんです。違う味の蜂蜜のどちらから食べようかと悩むことくらいしか、悩みは無くなります。」

 

「森はさみしくありませんか?」

 

「ええ、もちろんさみしいです。さみしいときは、さみしいのですよ。そして、たのしいときはたのしいのです。それが森です。」

 

「それが森ですか。」

 

「ええ、もちろんそれが森です。」

 

そう言って、クマはまた空にある何かを指差しました。

 

今のぼくには、その指差す先にある何かをまだ見ることができないのでした。 

 

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月白貉