ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn)が、自らの感覚で古き日本を歩きまわって独自の感性で見聞を広めたように、遠く故郷を離れてあてどなき夢想の旅を続けるぼくが、むじなと、そしてラフカディオと一緒に、見たり聞いたり匂ったり触ったりした、ぼくと、むじなと、ラフカディオの見聞録です。

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クチベニタケ(Calostoma japonicum)- 松江城マッシュルームマップ -

ぼくはいままでの人生で、「口紅」というものにあまり縁がなく生きてきた。

 

まあ性別が男性なので、日常的に唇に口紅を塗ることがないのは言うまでもなく、さらには女装の趣味も持ち合わせていないので、自宅に口紅などというものは当然のごとく置いてはいない。

 

また、こんなぼくでもこれまでに何度か女性とお付き合いをしてきたわけであるが、いずれの女性も普段はあまりお化粧というものをしない人であったため(もちろん、化粧などしなくとも十分美しかったということである。)、女性が部屋の中で口紅をぬっている光景もほとんど見たことがないし、例えば頬にキスをされたところで、自分の頬に真紅のキスマークがバッチリ付いていたという経験も残念ながらまったく無いのである。

 

というわけで、今回のハンティングきのこは「クチベニタケ」である。

 

松江城マッシュルームマップ - クチベニタケ -

 

クチベニタケ科クチベニタケ属のきのこで、学名を「Calostoma japonicum」、漢字で書くと「口紅茸」である。

 

球状の頭部は径が5mmから10mm程度で、色は汚白色から灰黄色、孔口が頂部に開いていて孔の縁は星状で鮮やかな紅色をしている。もうお気付きかも知れないが、この鮮やかな紅色をした孔口が和名の由来となっている。

 

頭部の下には根状の偽柄がのびており、色は飴色、細長いそうめん状で多数の菌糸束にわかれている。夏から秋にかけて林内の崖地などに多く発生する。

 

ちなみにこのクチベニタケ、長い間その生態に謎の多い菌類であったのだが、近年の研究により外生菌根菌であることがわかり、またイグチ類と近縁であることなども判明しているそうである。

 

さて、少しだけ口紅の話に戻ろう。

 

ずい分昔の話だけれど、朝の通勤ラッシュ時に、超満員の電車内で揉みくちゃになりながら会社に出勤してふと気が付くと、その日着ていた真っ白なシャツの襟元に、びっくりするくらいはっきりとした真紅の「キスマーク」が刻印されていたことがあった。

 

古めかしいドラマや漫画などで取り上げられる例のベタなシチュエーションのアレである。

 

まさか自分の身に巡ってくるとは思いも寄らず、なんだか一瞬ちょっと誇らしい気持ちにさえなったのだが、よくよく考えてみると、そのキスマークが付けられた瞬間の記憶がまったく無いので、いったいいつ、どのあたりで、どんな人が、どんな状況で、ぼくの襟元にキスマークを付けたのであろうかと考えていたら、一転してそれは恐怖に変わったのである。

 

望ましいシチュエーションとしては、若かりし頃の深津絵里に似たどこぞの一流企業の新人受付嬢が、その日の朝ぼくと同じ満員電車に乗り合わせていて、電車の揺れで周囲の人々に押されて体がよろめいた際に、隣にいたぼくのシャツの襟元に唇があたってしまい、彼女も知らぬ間にキスマークがついてしまったというものである。おそらく使っているのはシャネルのものあたりであろうか。

 

けれどおそらく、そんな美しいシチュエーションである確率はずいぶんと低いであろう。

 

もしかしたら、通勤ラッシュのその時間を狙って毎日乗り込んでくる女装趣味の中年男性が、電車の混雑と揺れに乗じて、手当たり次第に周囲の男性に唇を擦りつけまくっていたかもしれないではないか。その場合に、唇に塗っているものが口紅だとはかぎらないわけである。あるいは電車に乗り込む直前に噛みちぎった自分の指先の血液を唇に塗っての狂気じみた変態趣味かもしれない。

 

しかし、真相はもはや闇の中、その暗闇の先に真っ赤に光る唇が、一体誰のものだったのかは、もう忘れることにしよう。

 

まあそんなわけで、口紅にほとんど縁遠いぼくが持つ唯一の口紅ネタは、いまだに怪しげなベールに包まれたままなのである。

 

 

 

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月白貉