ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲が自らの感覚で日本を歩きまわって見聞を広めたように、故郷を離れて旅を続けるぼくが、ぼくの感覚でその土地を歩き回って、見たり聞いたり嗅いだり触ったりした、ぼくの見聞録です。

アミタケ(Suillus bovinus)- 松江城マッシュルームマップ -

小学生の頃に「連絡網」というものがあった。

 

同じクラスの生徒全員の自宅の電話番号が網の目状に連なって書かれた紙を配布されて、学校からの緊急連絡などがあった際に、バケツリレーのように順番にすべての家庭に電話で伝えてゆくというものである。

 

例えば遠足の前日から大雨が降り出し、遠足当日の朝になっても雨が降り止まず、学校側が「こりゃ、遠足は中止だな!」と判断した場合に、連絡網に記された電話番号の順番に「今日の遠足は中止だってよ!」という連絡が電話で回ってきたりするわけである。

 

現在、その学校の連絡網なるシステムが果たしてまだ存在するのだろうかとふと思った。

 

携帯電話登場から久しい昨今、いまでは移動中にいつでもどこでも電話がかけられるのは当たり前となり、さらにはインターネットの普及と急速な進化により、電話での通話に頼らずとも、メールやネットだけでほとんどのことをまかなうことが可能となっている。そんないまでは、たとえば小学生の子どもを持つ家庭のすべてが、固定電話をもっているとは限らないような時代になっているのではなかろうか。であるからして、「遠足中止のご連絡はメールでお送りします。」などということにもなりそうである。

 

ぼくが子どもの頃には、台所に置かれた固定電話の脇の柱にセロハンテープで貼り付けてある薄汚れた連絡網が、どれだけ大きなネットワークだったかしれない。けれどいまは、昔に比べて、個人が利用する情報網のレベルは遥かに複雑化しているのである。

 

さて、そろそろこのあたりからきのこに話を移してゆかねばならないのであるが、

 

連絡網の「網(もう)」とはつまり「あみ」のことであり、英訳すると「ネット」である。その網の形状から転じて、多くのものが複雑に結びついた状態あるいは関係を「網(もう)」と呼ぶようになり、いわゆるネットワークを表す言葉として使われている。

 

とういわけで、今回のハンティングきのこは「アミタケ」である。

 

松江城マッシュルームマップ - アミタケ -

 

イグチ目ヌメリイグチ科ヌメリイグチ属のきのこで、学名を「Suillus bovinus」、漢字で書くと「網茸」である。

 

傘の径は5cmから11cmほど、表面の色は赤褐色から黄褐色でとても強い粘性を持っている。管孔は垂生していてオリーブ色を帯びた黄色、写真を見ていただくとわかるように孔口は多角形をしており大きさも様々、おそらくこの網目状の管孔が和名である「網茸」の由来になっていると思われる。柄の長さは3cmから6cmほど、つばはなく傘よりも若干淡い色をしている。

 

このアミタケ、おそらくご存じの方も多いかと思うのだが、古くから優秀な食菌として名高いきのこである。

 

滑りを活かした汁物をはじめ、各種料理に活用できるとても需要の高いきのこだそうである。ちなみに火を通すと赤紫色に変色するため、火の通り具合が目でも確認できるあたりもなかなか優秀である。

 

ちなみにぼくはまだ食べていない。以前にムラサキシメジを採取してきた際、その肉の中に潜んでいた数百匹のキノコバエの幼虫の姿がトラウマとなり、野のきのこを食べることを控えている。しかし気温もずいぶん下がってきた今日このごろ、そろそろ決行の時期かと思いつつ様子を見ているのである。

 

補足であるが、このアミタケとセットで生えてくる仲良しきのこの存在がある。

 

ぼくはまだ確認できていないのだが、「オウギタケ」という種類のきのこがしばしばアミタケに寄り添うように生えてくるとの情報を得ている。寄り添うと書くと何やら微笑ましい光景のようだが、実はこのオウギタケはアミタケの菌糸に寄生して栄養を奪っているのだとか。なんとも仲良しどころかコバンザメ的な趣のきのこなのであった。しかしその様子をいずれ見てみたいものである。

 

さて、少しだけ連絡網の話を。

 

ぼくが子どもの頃は、連絡網の次の人の電話番号や、多くの仲の良い友だちの自宅の電話番号をすべて頭に記憶していた。それはおそらく、ぼくだけではないであろうと思う。けれど携帯電話などというものが普及しだして、自分でも携帯電話を使い出す頃になると、必要な電話番号はすべて「携帯電話くん」自体がメモリー機能で記憶するようになってしまい、自分の頭にはまったく記憶されなくなってしまったのである。だから例えばどこかの固定電話や公衆電話から緊急で友だちに連絡を取らなければいけないという場合に、携帯電話無しではまったく番号が思い出せないので、結局携帯電話で番号を確認しないと電話がかけられないというなんとも矛盾したことになってしまっている。なんとか頭に入っているのは、自分の携帯電話の番号くらいである。

 

それこそ、文明の進化に伴う人類の退化にほかならない。まったく恐ろしいことである。

 

ぼくは一時期、携帯電話に嫌気がさして解約してしまったことがあるのだが、さっそく周囲の人々から、

 

「なんで携帯をもっていないんだよ、まったく連絡がつかないじゃないか!」

 

という理不尽なクレームを多数頂戴したことがある。ちなみに当時自宅には固定電話を設置してあったし、ご丁寧にその電話機の留守番電話機能もオンにしてあったのだ、まったく連絡がつかないことなどない。だからそういうクレームに対しては、

 

「いつでもどこでも、連絡がつくと思うなよ!」

 

と返していたはずである。

 

まあそんなわけで、連絡網はおろかアミタケの話からもずいぶん遠ざかりはしたけれども、アミタケの管孔のアミアミを見なければ、連絡網のことなど思い出しもしなかったであろうゆえ、ご容赦願いたい。

 

さてちなみに、携帯電話を一度解約したにも関わらず、再び携帯電話を携帯し出した理由はといえば、当時、好意を寄せていた美しい女性に、

 

「携帯電話もってよ。」

 

と言われたからであることは、もちろん言うまでもない。

 

 

 

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月白貉