ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲が自らの感覚で日本を歩きまわって見聞を広めたように、故郷を離れて旅を続けるぼくが、ぼくの感覚でその土地を歩き回って、見たり聞いたり嗅いだり触ったりした、ぼくの見聞録です。

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モエギタケ(Stropharia aeruginosa)- 松江城マッシュルームマップ -

「萌え」という言葉がある。

 

もともとは草木の芽が出る様を表現する言葉であるが、 昨今ではこの言葉の日常的な使用法がほとんどの場合、違った意味合いで用いられることが多いのは言うまでもない。

 

ちなみに本来の「萌え」は、ヤ行下二段活用の動詞である「萌える(萌ゆ)」の連用形であり、前述したように語義は「芽が出る」や「芽ぐむ」などといったことを示している。

 

またこの本来の「萌え」は日本の伝統色の名前にも用いられており、その色は萌黄色(もえぎいろ)という。

 

この色はもともと葱の芽が出た時に見られる薄青と緑の中間色のことをあらわすもので、正確には「萌葱色」と書かれる。

 

伝統的な「萌え」にしても、伝統色である「萌葱色」にしても、日常的な会話の中では昨今めったにお目にはかからない。それがおそらくは時代の流れというものなのかもしれないし、あるいは近年の無駄に多様化する日本文化が、伝統的な日本語の絶滅に拍車をかけているのかもしれない。

 

というわけで、今回のハンティングきのこは「モエギタケ」である。

 

松江城マッシュルームマップ - モエギタケ -

 

ハラタケ目モエギタケ科モエギタケ属のきのこで、学名を「Stropharia aeruginosa」、漢字で書くと「萌黄茸」である。

 

傘の径は3cmから7cmほど、まんじゅう型から平らに開き、表面はなかなか強力な粘性を帯びている。傘の色は名前の通りきれいな萌黄色をしているのだが、老菌に近付くに連れて帯黄色となる。というわけでこのきのこの見頃はやはり幼菌から成菌の早い段階における傘の鮮やかな萌黄色であろう。写真の個体に関しても、やや傘の色が褪せて黄色に近付いてきていることが見て取れる。

 

柄の長さは4cmから10cmほど、基部に白色菌糸束、また柄の中程からやや上部に膜質のつばを持っている。夏から初冬にかけて林などの地上に生える。

 

さて食毒に関してであるが、一部の文献には食べることの可能な食菌とされている。

 

ちなみにぼくが好んで参考にしている文献には「食」のマークは付いていない。実はこのモエギタケは一部では有毒説も囁かれているらしく、強力な毒ではないそうであるが毒の成分を含む可能性があるという。そのため色の美しさに惹かれて迂闊には食さないほうが無難であろう。傘の色味から言ってエスニックなスープなどに浮かべてみたらなんとも美しいであろうが、残念ながら今回は食べることを諦めざるを得なかった。

 

さて、「萌え」の話に少しだけ戻ろう。

 

伝統的な「萌え」ではなく、近年成立した俗語としての「萌え」であるが、まあここで説明するまでもなくずいぶんと市民権を得ている言葉であろうと思う。

 

簡単に説明すると、アニメ、漫画、ゲームなどの媒体における対象物への好意、恋慕、傾倒、執着、興奮などの感情を表す言葉である。

 

本当かどうか知らないが、「心に春を感じる」といった本来的な「萌え」になぞらえた語感で用いられるそうである。

 

ここでふと気が付いたのであるが、ぼく自身は本来的な「萌え」を日常的に使うことは少ないが、俗語としての「萌え」もよくよく考えてみれば、日常的に使うことなど皆無に近いし、誰かとの会話の中で俗語の「萌え」が使用されているシチュエーションも、特殊な状況ではない限りほとんど無い。

 

※以下、本来的な「萌え」を「萌えA」、俗語としての「萌え」を「萌えB」として記述する。

 

例えば短歌や俳句、古典文学などを本格的に研究していたり、あるいは趣味にしている方々の集いに参加すれば、日常的な会話の中にも「萌えA」が頻繁に登場するであろうし、一方、アニメやゲームに度を越して傾倒しすぎているいわゆるオタク系の人々が集う場に足を踏み入れれば、嫌というほど「萌えB」が連呼されるに違いない。

 

けれど、ぼくの経験から言うと、日常的にはどちらの「萌え」も、滅多なことがない限り使いもしないし、耳に入ってくる言葉でもない。であるからして、言葉の意味合いの変遷はさておいて、まあ、言葉としてはどっこいどっこいであろうと思うに至るのである。

 

というわけで、モエギタケの美しさを、めったに使わない二つの「萌え」を贅沢に使用して表現するならば、落葉の隙間より萌え出づるモエギタケに、究極に萌えたのであるよ。

 

 

 

 

 

 

月白貉