秘密
「浦島さん、以前ぼくが言っていた相談事の話、聞いていただけるんでしょうか?」
浦島さんはいつものように、薄汚れたヨレヨレのトレンチコートを膝の上にぐしゃぐしゃに丸めて、車窓の外のどこかの景色を、とても透明な笑顔を浮かべながら眺めている。そして時々、ぼくの知らない歌を小さな声で口ずさむ。
「どんな相談事でしょうか?」
ぼくの方に顔は向けないけれど、なんだかぼくの頭を撫でるような声が響く。
「いままで誰にも言ったことはないのですが・・・」
浦島さんはぼくの言葉を遮る。
「いままで誰にも言ったことのない話ですか、そうですか、なるほどわかりました。
では私も聞かないことにしましょう。それはおそらく私の経験から言うとですね、誰かに相談する種類のことではありません。白酒さん、あなたがひとりで誰にも言わずに考える種類のことです。なぜいままで誰にも言わなかったのか、それがどんな秘密なのかは私にはわかりませんがね、それはあなたがひとりで抱えるべきことだと、私は直感的に思いました。だからその相談事は聞きかねます。大変申し訳ないけれど、白酒さんのことを思うが故の私の選択です。あなたがしっかり抱え込んで、考えに考えて、どうしようもなくなったら、まあそうですねえ、私なら忘れてしまいます。だからその相談事の話はやめにして、好きな映画の話でもいたしましょう。」
月白貉