ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn)が、自らの感覚で古き日本を歩きまわって独自の感性で見聞を広めたように、遠く故郷を離れてあてどなき夢想の旅を続けるぼくが、むじなと、そしてラフカディオと一緒に、見たり聞いたり匂ったり触ったりした、ぼくと、むじなと、ラフカディオの見聞録です。

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ゴミの中のムルシアン

近所のゴミ捨て場に空き瓶を捨てにゆくと、小さなムルシアンが鎖でつながれて捨てられていた。

 

その顔には精気がなく、ひどく荒んだ様子だったので、なんだか可哀想になって家に連れて帰った。

 

鎖を解いて、綺麗に体を洗って、部屋に放してみると、ゴミ捨て場では死んだように寝転んでいたムルシアンが、息を吹き返したみたいに元気になった。

 

蹄で畳をガリガリと蹴り飛ばして、フンフンと鼻を鳴らしながら、部屋中を走り回りだした。

 

ぼくはその姿を見て少しだけホッとして、夕食の支度にとりかかった。

 

ぼくが夕食の支度をしている間中、ムルシアンはずっと部屋の四隅にゴンゴンと頭をぶつけながら走り続けていた。

 

そのうちに夕暮れが近付き、さっきまで太陽を隠していた雲がいつの間にか空の彼方に消え、西陽が部屋の中に降り注ぎだすと、ムルシアンはふと走るのをやめて、

 

部屋の中央に置かれた小さなピレア・グラウカ・グレイシーの方に向けてゆっくりと歩いてゆき、

 

そこで四本の足を丁寧にたたんで横になった。

 

そして次の瞬間には、ムルシアンは大きな寝息を立てていた。

 

その顔があまりにもしあわせそうだったので、ぼくもなんだかしあわせな気持ちになった。

 

おやすみ、小さなムルシアン。

 

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月白貉