ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn)が、自らの感覚で古き日本を歩きまわって独自の感性で見聞を広めたように、遠く故郷を離れてあてどなき夢想の旅を続けるぼくが、むじなと、そしてラフカディオと一緒に、見たり聞いたり匂ったり触ったりした、ぼくと、むじなと、ラフカディオの見聞録です。

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クマの味

「白いお米と、塩だけのおにぎりは、おいしいです。 白いお米に、味噌を塗るのもおいしいですが、 やはり、塩だけが何よりおいしいです。」

 

クマの味

 

近所の公園にいる、まっ白い毛をした小さなクマは、 いつも風呂敷を首に巻いています。

 

あるときぼくが公園の横を通りかかると、 いつものようにクマがいて、シーソーの片方に腰かけているので軽く会釈をすると、 クマも軽く会釈をしてこちらに歩いてきました。

 

「ちょっとお尋ねしますが、 おにぎりは何味がお好きですか?」

 

クマは言いました。

 

「ぼくが小さい頃、母はよくウインナーの入ったおにぎりを作ってくれました。」

 

ぼくがそう言うと、クマはあっという顔をして、

 

「ウインナーはよいです、あれはおにぎりの味としては少々奇抜ではありますが、 なかなかどうして、高度なおにぎりの味です。」

 

ぼくが、うなずいてにこりと笑うと、

 

「わたしは、なんといっても塩です。 白いお米と、塩だけのおにぎりは、おいしいです。 白いお米に味噌を塗るのもおいしいですが、 やはり、塩だけが何よりおいしいです。」

 

クマは首に巻いた風呂敷を開いて、 サッカーボールくらいの大きなおにぎりを取り出して、 ぼくに差し出しました。

 

「このおにぎりには、まだ味がついておりません。 あなたの好きなように味を付けてお食べなさい。」

 

そう言って、クマはまたシーソーの方に歩いて行き、 その片方にちょこんと座って、気持ち良さそうに空を仰ぎ見ました。

 

空は雲ひとつなく晴れ渡っていて、冬の到来を告げる冷たい風たちが、 びゅーびゅーと楽しそうに歌いながら、飛びまわっていました。

 

クマのくれたおにぎりは、まだほんのりとあたたかいのでした。

 

 

 

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月白貉