ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn)が、自らの感覚で古き日本を歩きまわって独自の感性で見聞を広めたように、遠く故郷を離れてあてどなき夢想の旅を続けるぼくが、むじなと、そしてラフカディオと一緒に、見たり聞いたり匂ったり触ったりした、ぼくと、むじなと、ラフカディオの見聞録です。

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河童ご飯

近所にある川縁でため息をついてしかめっ面をしていたら、 川からカッパが上がってきて、 へんてこな水草がたくさん絡み付いた木の枝で頭をコツンと叩かれた。

 

「おいおまえ、さいきん朝ご飯はたべんのか?」

 

とカッパは言った。

 

河童ご飯

 

そういえばここ数ヶ月、 自分が朝ご飯を食べていないことに気が付いた。

 

「ああ、そういえばなんだかんだとやる気がなくて、 うっかり朝ご飯を食べていませんでした。」

 

ぼくがそう言うと、 カッパはまた木の枝でぼくの頭を叩いた。

 

「ばかもの、朝ご飯は食べなさい。 朝ご飯さえ食べていれば、あとは何をしていたっていい。」

 

そう言われたらなんだか楽しくなってきて、 おなかもすいてきた。 するとカッパはおもむろに背中の方からキュウリを取り出してバリバリとかじりだし、 そのままぼくの横を通り過ぎて川沿いの民家の玄関へ入っていった。

 

しばらくしてから、「ごめんくださ〜い。」というカッパの声が聞こえた。

 

ごめんくださいを言うタイミングがずいぶん遅いなあと思ったけれど、 そういうのもいいなあと思った。

 

いまからでも遅くはない、 家に帰って朝ご飯を食べよう。 そしてあとは好きなことをしよう。

 

そんな秋の夕暮れだった。

 

河童・或阿呆の一生 (新潮文庫)

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月白貉