ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn)が、自らの感覚で古き日本を歩きまわって独自の感性で見聞を広めたように、遠く故郷を離れてあてどなき夢想の旅を続けるぼくが、むじなと、そしてラフカディオと一緒に、見たり聞いたり匂ったり触ったりした、ぼくと、むじなと、ラフカディオの見聞録です。

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オオセンチコガネ(Geotrupes auratus auratus)- 松江城マッシュルームマップ 菌食動物編

日々、きのこを必死で探している方はお気付きのように、 せっかく見つけたきのこが何者かの手によって無残に破壊されているケースに遭遇することがある。

 

その何者かはあるときは鳥や獣であったり、あるときは昆虫類であったり、またあるときには人間であったりする。

 

鳥や獣あるいは昆虫類であれば、きのこを破壊する目的は食べるため、生きてゆくためであるから仕方がないし、特にそういったことには腹がたたない。けれど、人間の場合の一部のケースにおいてはちょっと話が違ってくる。もちろん、研究目的や食用の目的で採取する場合もあるだろうし、その際に半分に割ってみたり、折ってみたり崩してみたりという作業が発生する場合もあるかもしれない。それに対しても、まあ腹が立つことはない。

 

ただ何度か目撃したことがあるのだが、

 

なんの目的も持たずに、目に付くきのこをすべて破壊して歩き回っている人間がいたりする。

 

それが趣味なのか、屈折した正義感なのか、あるいは癖や無意識によるものなのかは定かではないが、ぼくが目撃した限りではそのほとんどが老人であった。

 

ぼくがきのこを探しているエリアは、場所によっては遊歩道的な空間になっており、比較的人間の往来が激しいのだ。そのためだろうけれど、そのエリアにおいてのきのこ破壊者の十中八九は人間だと推測される。

 

ある時、ずいぶん高齢な老人が散歩の途中らしきシチュエーションの中、見るきのこ見るきのこをことごとく蹴り飛ばしたり踏み潰したりしている光景を目撃した。ゾッとして非常に気分が悪くなったとともに、ずいぶんと腹立たしかったことは言うまでもない。

 

とまあそんなわけで、ここではそういう人間のきのこ破壊者を実名や写真とともにご紹介したりはしないが、きのこを探しているとセットのように付いてくる菌食動物、つまりきのこを食料としている生物なんかも取り上げてゆこうかと思い立った。

 

というわけで、今回の菌食動物は「オオセンチコガネ」である。

 

松江城マッシュルームマップ 菌食動物編 - オオセンチコガネ -

 

コウチュウ目(鞘翅目)コガネムシ上科センチコガネ科に属する甲虫で、学名を「Geotrupes auratus auratus」、漢字で書くと「大雪隠黄金」である。

 

 

名前を見ていただくとわかるように、センチコガネという甲虫の少し色の異なる大型種である。成虫、そして幼虫ともに糞を食料とする昆虫で、名前の「センチ」とは便所をあらわす「雪隠(せっちん)」という言葉からきていて、糞に集まるその性質が名の由来となっている。体は金属光沢のある赤紫色であり、何かの宝石のようでとても美しい。また地域による変種が多いことでも知られており、瑠璃色や緑色などを帯びるものもいる。

 

糞をメインな食料とする糞虫ではあるのだが、動物の死骸やきのこなども食料にするため、真夏のきのこ探しの際にはずいぶんとお目にかかったし、晩秋のいまでも、暖かい日にはまだまだ活動している。

 

交尾後のメスは、糞を土中に掘った巣穴に運び込んでゆき、その糞で「育児球」を作り、その育児球に産卵するわけである。センチコガネ種の特徴として、育児球を枯葉で包むという行為が報告されているらしく、他のコガネムシ科の糞虫の育児球と異なる場合があるという。興味深い話である。そして育児球で孵化した幼虫は、その育児球を食べて成長するといわけだ。

 

ぼくが目撃したオオセンチコガネやセンチコガネは、ほとんどの場合がぼくと同様にきのこを目的としていたようで、大型のきのこの中に潜り込んで、そのきのこの「肉」を採取し巣穴へと一生懸命に運んでいた。ということは、

 

きのこを運んでいるオオセンチコガネの育児球は糞球ではなく、きのこ球あるいは菌球になっているのだろうか。

 

糞球だとちょっと抵抗があるが、きのこ球なら見てみたいものである。

 

まあ糞虫などと聞くと、なんだか汚いなあと思われる方も多いかとは思うのだが、オオセンチコガネが糞虫として自然界の物質循環に果たす役割は非常に大きく、またその金属光沢のある美しい容姿から、昆虫採集の価値ある標本としての人気も博しているのである。まあ後者は人間目線のものであり、オオセンチコガネからしたら堪ったものではないだろうが。

 

まあそんなわけで、今回は久しぶりに、なんとためになる真面目な話だったであろうと自画自賛しつつ、お開きとさせていただこうと思う。

 

オオセンチコガネ、実際に出会ってみると思いの外キュートなので、ぜひその出会いをオススメしますよ。

 

 

 

センチメンタル通り

センチメンタル通り

 
日本産コガネムシ上科標準図鑑

日本産コガネムシ上科標準図鑑

 

 

 

 

月白貉