ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn)が、自らの感覚で古き日本を歩きまわって独自の感性で見聞を広めたように、遠く故郷を離れてあてどなき夢想の旅を続けるぼくが、むじなと、そしてラフカディオと一緒に、見たり聞いたり匂ったり触ったりした、ぼくと、むじなと、ラフカディオの見聞録です。

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ヒナノヒガサ(Rickenella fibula)- 松江城マッシュルームマップ -

きのこの大きさは実に様々。

 

ときに数十キロにもなる巨大な種類もあるかと思えば、日常生活では見つけようと思っても見つけられないほど小さな小さな種類もある。目線を落としても、匍匐前進で進んでいても見失ってしまうような、人間の世界とはかけ離れたミクロなきのこも数多く存在する。

 

きのこを探しだして思ったことがある。

 

「もっと体が小さければいいのになあ。」

 

目線を落とそう落とそうと思っても、なかなかそう思ったようにはいかない。この頃ずいぶん「きのこ目」になってきたので、どれだけ小さなきのこでもなんとか視界にとらえることは出来るようにはなったものの、おそらくもっとたくさんの小さな小さなきのこを見逃してしまっているに違いないという、妄想じみた思いが頭をよぎる昨今なのである。

 

ぼくは両親ともに背が小さい方なので、自身も背が伸び悩んだまま今に至る。多感な青春時代にはそのことがずいぶんとコンプレックスだったのだが、ある時期からはまったく気にならなくなった。何ごとも自らにプラスにしてゆくことが大切だと思うようになったからである。無いものを求めるのではなく、あるものを如何に活かすかが、人生を楽しくするために何よりも必要なことだと、いまはそう強く思う。

 

けれどもだ、きのこを探しだしたいまのぼくの大いなる野望は、「きのこがよりよく探せるように、もっと小さな体になりたい!」なのである。

 

というわけで、今回のハンティングきのこは、小さな小さな「ヒナノヒガサ」である。

 

松江城マッシュルームマップ - ヒナノヒガサ -

 

ヒナノヒガサ科ヒナノヒガサ属のきのこで、学名を「Rickenella fibula」、漢字で書くと「雛日傘」である。

 

傘の径は0.5mm ~ 大きくても1cmほど、傘の中央がややくぼんでおり、色は橙色から橙黄色、柄も同様の色で、傘柄とも表面に「シスチジア」と呼ばれる微毛を有している。じつに可憐というべきステキなきのこである。住処としての苔をこよなく愛するようで、ぼくが見た限りでは必ず苔の合間に楽しそうに揺らめいている。

 

普通に暮らしていたらおそらくまったく気付かないであろう極小の部類のきのこなので、これを食べようと思う人はなかなかいないだろうが、このきのこは何を隠そう毒を持っている。しかもである、この小さな体に宿している毒性分が引き起こす中毒は、なんとワライタケやオオワライタケと同様の幻覚性、中枢神経をやられる魅惑的な毒を持っているのである。なぜこの小さな体にそんな毒を持ち得たのかはわからないところが、まさに自然の神秘である。

 

なんとも素晴らしい。

 

個体が小さいだけに一本や二本食べただけでは、おそらくそれほど強烈な中毒は起こさないだろうが、この小さな体に宿す力量は未知数であるゆえ、もし出会った際にはお気を付け願いたい。

 

そう、このきのこを見ていると、背が小さいころに悶々と悩んでいた自分を恥ずかしく思う。もうそこからは卒業しているし、いまや背が小さくなりたいとまで願う自分がいるのだからね(きのこを探したいだけであるが)。

 

小さきものは実は何よりも強いというのは、昔から多く語られてきた話だ。一寸法師ホビットがそのいい例であろう。

 

まあそんなわけで、今後は小さき体に恥じぬよう、きのこを探す所存であるよ。

 

 

 

一寸法師 (角川文庫)

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月白貉