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ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲が自らの感覚で日本を歩きまわって見聞を広めたように、故郷を離れて旅を続けるぼくが、ぼくの感覚でその土地を歩き回って、見たり聞いたり嗅いだり触ったりした、ぼくの見聞録です。

ムラサキシメジ(Lepista nuda)- 松江城マッシュルームマップ

きのこ きのこ-松江城マッシュルームマップ

スーパーマーケットにゆくと一年中きのこが売られている。

 

よく見かける種類はだいたい五種から六種ほどであろうか、シイタケ、シメジ、エリンギ、ナメコ、エノキタケ、マイタケ。

 

地域や時期によっては、マツタケやヒラタケなどその他のものが出回っていることもある。

 

きのこを探して野山を駆けまわっていると、そのようなメジャーな食菌の仲間にもちらほらお目に掛かるが、野生のきのこは人の手によって栽培されているきのことはまったく容姿が異なっているケースも少なくない。特にシメジの仲間などは、「え、これシメジなの!?」と驚くこともある。

 

スーパーでしかきのこを見たことがないような人々もたぶん大勢いるだろうし、

 

いつもスーパーの商品棚に並んでいるのが、この世のきのこのすべてだと信じて疑わない人だって中にはいるだろう。

 

よく笑い話で聞くようなもので、大型スーパーの魚売り場で魚の「切り身」しか見たことのない子どもが、あの切り身が海を泳いでいると真剣に思っているという話のそれである。それがあながち冗談でもないらしいので、世の中どうなっているのかと思う。

 

きのこはその話ほど劇的ではないにせよ、スーパーでお行儀よく袋詰されているシメジのようなきのこは森にはまったく生えてはいないのである。

 

というわけで、今回のハンティングきのこは「ムラサキシメジ」である。

 

ムラサキシメジ(Lepista nuda)- 松江城マッシュルームマップ

 

ハラタケ目キシメジ科ムラサキシメジ属のきのこで、学名を「Lepista nuda」、漢字で書くと「紫占地」あるいは「紫湿地」である。

 

 

晩秋期の森林性落葉分解菌で菌輪を作ることもある。傘の大きさは6cmから10cmほど、幼菌の頃には傘ひだ共に鮮やかな紫色を帯びるが、時間が経つに連れてその色は褪せてゆく。撮影した個体はずいぶん時間が経ってしまったようで、やや色あせた紫であった。

 

このきのこは古くから食用にされてきた優秀な食菌で、

 

味と食感、どちらもなかなかよろしいということであるが、傘が開いてしまうと味が粉臭くなるので、もし食用目的で狩るのであれば傘の開く前がおすすめであろう。ただこのきのこも生食の際には中毒を起こす危険性があるゆえ、からなず煮るなり焼くなりしなければならない。

 

ちなみにこのきのこの仲間に、酷似した容姿を持つ「ウスムラサキシメジ」なる毒きのこが存在する。

 

一見するだけだとよく似ているため、ムラサキシメジだと思っての中毒例は数多いという。判断基準としては、まず匂いに特徴がある。ムラサキシメジは甘くて爽やかなきのこ臭がするのに対して、「ウスいやつ」に関してはアンモニアや薬品のような不快臭がする。これは判断基準としては大いに重要であろう。容姿で言うと名前にもあるようにムラサキシメジに対してずっとウスい色をしている。しかし前述の通り、ムラサキシメジも時間の経過で色あせてくるので、判断基準としてはなかなか難しいところがある。最終的な判断としては、個体を縦に割ってみると、ムラサキシメジは中実なのにたいして、他方は中空となっている。

 

実際に今回発見した個体に関してもずいぶんと傘の色が褪せていたので、はじめはどちらか大いに悩んだのだが、最終的な同定としてはムラサキシメジと判断している。

 

ウスい奴の毒性について少しだけ言及すると、

 

発症するのはいわゆる神経系の中毒で、酒の肴になどすると酒を毒性分に変化させる作用がある。中毒症状としては、舌の痺れによるロレツのみだれや手足の痺れ、最終的には歩行困難になることもある。死には至らないようであるが、腹痛や吐き気ではないところがやや恐ろしい。

 

同定するために持ち帰ったので、食べてみようかとずいぶん迷いながら虫抜きのため水につけてしばらく、よくわからない幼虫のようなものがわんさと中から出てきた。それは想定内だったのだが、その様子を見ていると突然きのこの中からゆうに5cmはあろうかというハサミムシが登場して、その瞬間我家のキッチンが戦場と化したことは言うまでもないが、その話はまた次の機会に譲ろうと思う。

 

まあそんなわけで、もしぼくがスーパーだけでしかきのこを見たことがなかったら、これがシメジだとは思わなかったであろうから、海を泳ぐ切り身を笑えたものではない。

 

人はもっと真実を学んでゆかねばなるまいと思う、晩秋の頃である。

 

 

 

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月白貉