対岸 - パラケルススの庭
『対岸』
友だちと葡萄酒をしこたま飲んで酔っ払って、その勢いで真夜中の湖に繰り出した。
真っ暗闇の湖の向こうに、ぼんやりとした光がちらついているのが見えた。「対岸に灯りが付いているね、これだったらあそこまで泳いでゆけるさ。」と背後から聞こえてきた友だちの声に振り返ると、そこにはただ暗闇が広がるばかりで、友だちの姿は見えなかった。
「お〜い、どこにいるんだよ?」とぼくが声をかけると、ずっと遠くの方から小さな声が聞こえてきた。
「いつだってきみは後ろばかり振り返るね、ぼくがずっとずっといつまでも、きみの後ろにいるとでも思っているのかい、ぼくはもう対岸にいるよ。」
月白貉