ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn)が、自らの感覚で古き日本を歩きまわって独自の感性で見聞を広めたように、遠く故郷を離れてあてどなき夢想の旅を続けるぼくが、むじなと、そしてラフカディオと一緒に、見たり聞いたり匂ったり触ったりした、ぼくと、むじなと、ラフカディオの見聞録です。

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ハナサナギタケ(Isaria japonica)- 松江城マッシュルームマップ

人生で初めて、冬虫夏草を自らの手で掘り出した、きょうは記念すべき日である。

 

と、日記に記さねばなるまい。

 

きのこに興味を持つずっと前から、冬虫夏草なる珍品きのこの話は聞き及んでいたのだが、まさかそれを自分で見つけて、そしてかつ自分の手で掘り出す日が来るとは思っていなかった。

 

きのこに心を奪われてからわずか三ヶ月に満たないきのこ初心者ではあるのだが、初心者であるがゆえに難易度の高いものに憧れてしまう。

 

きのこの中には、なにやら蛾や蝉や蟻や蜘蛛や、はたまた亀虫や蜻蛉などに寄生して、昆虫と菌類の結合体としてきのこの体をなすものが存在すると噂に聞いてから久しいが、きのこに本格的に興味を持ちだしてからの数ヶ月は、常にぼくの頭にはその存在がチラついていたのである。

 

きのこを探しだしてまもなく、奇しくもこれまでに二度、冬虫夏草のその姿には対面した。そしてその際に感動のあまり涙を流したことは言うまでもないのだが、一種は地上で死にゆく蝉本体の体表に姿を現すタイプの「セミノハリセンボン」。そしてもう一種は、蝉の一種であるツクツクボウシの幼虫に寄生して地中から姿をあらわすタイプの「ツクツクボウシタケ」。どちらも日本においてはれっきとした冬虫夏草ではある。しかし前者はすでに地上で死した蝉の体で完結するタイプのものであり、後者においては、地上に姿を現した子実体は確認したのだが、結合体の核をなす昆虫の本体を掘り出して対面することが出来なかったのである。

 

きのこというものは人間様の都合で生えるわけではないので、見てみたい種類がそうそうたやすく見つかるわけではない。ましてや、お金を払えば見つけられるというシロモノでもないので、ことさらに冬虫夏草なんてそうそうみつからないじゃあ、ありませんかと思っていたら、けっこう見つけてしまう自分がいるのである。

 

あっ!と思って、もう必死で素手で掘り出したのが、今日の午前中である。

 

というわけで、今回のハンティングきのこは「ハナサナギタケ」である。

 

松江城マッシュルームマップ - ハナサナギタケ -

 

ノムシタケ科イサリア属のきのこで、学名を「Isaria japonica」、漢字で書くと「花蛹茸」である。

 

鱗翅目の蛹に寄生するきのこであり、いわゆる不完全世代である。ちなみにこの完全世代はウスサナギタケとなる。

 

ツクツクボウシタケのケースと違い、今回はきちんと掘り出してみた。シャベルなどの装備を持たなかったので、前述にもあるようにもちろん素手で必死で掘り出して、近くの水場で泥をそぎ落としてみたのだが、確かに蛾の蛹のようなものから柄が伸びていることが確認できた。写真からでもある程度は確認いただけるかと思う。

 

この蛹のようなものが、鱗翅目、いわゆる蛾のものなのかどうかはさだかではない。もし蛾の一種ではないものの蛹なのであれば、また違う種類の冬虫夏草であろうが、冬虫夏草だということはおそらく間違いない。

 

森のなかでしゃがみこんで、土中の蛾の蛹の死骸から生え出した菌類を必死で掘り出す様が、客観的にどのようなものかは想像だにしない。しかし、ぼく自身にとっては、きょうのその時間と空間が至福と言わざるをえないことは、まったくもって間違いはない。

 

みなさんも、ぜひいつか来る連休の際などには、森に冬虫夏草を探しにゆくことを強くオススメする。あるいはご家族でゆくのもよいであろう。

 

そこに必ず、真の幸せというモノの片鱗も埋まっているはずである。

 

蛾の蛹の横のほうですよ、シャベルで掘る際には壊さないように、お気をつけあそばせ。

 

 

 

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月白貉