ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn)が、自らの感覚で古き日本を歩きまわって独自の感性で見聞を広めたように、遠く故郷を離れてあてどなき夢想の旅を続けるぼくが、むじなと、そしてラフカディオと一緒に、見たり聞いたり匂ったり触ったりした、ぼくと、むじなと、ラフカディオの見聞録です。

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ツクツクボウシタケ(Isaria cicadae)- 松江城マッシュルームマップ -

最近すっかり秋めいてしまって、いっきに空気感が変わった。もう何十年も生きていて、季節の変わり目など十分に知っているはずであろうに、なぜか季節の変わり目というものには驚きを隠せない。

 

「えっ、昨日まで夏だったのに、今日いきなり寒くなったんじゃない!」という台詞を吐く自分に、「去年も言うたやないかっ、バカか!」とノリツッコミを入れるような感じだと表現すればわかりやすいかどうか知らないが、まあそんな具合である。

 

夏の代名詞といえばいろいろあるのだが、まあその中でも蝉は欠かせないものであろう。

 

夏を代表する虫の双璧といえば、個人的な見解を述べさせてもらえるならば、蝉と蚊である。しかし蝉が地上で活動する時期は夏に限られているのに対し、蚊は基本的には一年中活動をしている。ということは夏に関して言えば自ずと蝉に軍配が上がる。

 

小学生の頃に、「蝉は地上に出てきてから七日の生命しかない儚い生き物です。」と、なにやら説話的に教わった気がするのだが、最近知った情報によれば、地上に出てきてからの成虫の状態で一ヶ月は生きるという。

 

ずいぶんと情報が違っていて「ぎゃふん!」と言ってひっくり返った。蝉の命は短いなどという、なんだかよくわからない戒めの話みたいなことが世にまかり通っているが、すでに地中でずいぶん長く生きているということがあまり表沙汰にされない。地中にいて幼虫の頃だって生きているのに、なぜ命の長さが地上に出てきてからの成虫の時期だけのような話になっているかが、疑問で仕方がないし、地上の命も七日ではないそうではないか。

 

子どもたちには、もっと正確な情報を教えるべきである。

 

ぼくは蝉といえば、やはりヒグラシとツクツクボウシが好みである。いまのぼくの蝉に関する知識量はきのこのそれには及んではいないので、知ったかぶりの蝉通ぶったことは言えないのだが、他に知っている蝉の名前があまりないというのもその理由のひとつである。

 

「ミ〜ンミンミン」よりも「ツクツクボ〜シ」や「カナカナカナカナ」が好みだというほどのちょっと気取った庶民派、「ここの洋食屋は、生姜焼きよりも、やっぱりデミグラスソースハンバーグがいいわね。」といったレベルであろう。

 

というわけで、今回のハンティングきのこは「ツクツクボウシタケ」である。

 

松江城マッシュルームマップ - ツクツクボウシタケ -

 

スチルベラ科Stilbellaceaeに属するきのこで、学名を「Isaria cicadae」、漢字で書くと「寒蝉茸」であろうか。

 

「寒蝉」とは秋に鳴く蝉、秋を告げる蝉という意味合いの言葉であって、日本の風土においてはヒグラシにもツクツクボウシにもやや場違いな名前であるように思われる。したがって、あるいは「法師蝉茸」のほうがよいかもしれぬが、後述する完全世代に配慮して「法師茸」として話を先に送ることにしよう。

 

このきのこは、セミ科のツクツクボウシの幼虫に寄生し完全世代を形成する「ツクツクボウシセミタケ」の不完全世代型であり、いわゆる冬虫夏草と言われる部類のものである。しかし最も重要事項である土中にある本体のツクツクボウシをこの時掘り起こさなかったので、あるいはこれは別の冬虫夏草かもしれない。その点はご容赦いただきたい。

 

ちなみにその別の候補はすでに立候補済みで、「コナサナギタケ」と呼ばれるやはり冬虫夏草の一種類である。コナサナギタケは、小型の蛾の蛹に寄生するきのこで、これもやはり不完全世代型。文献を参考にする限りではその容姿は酷似しているように思われるが、コナサナギタケのほうがいくぶん小型かもしれない。

 

いずれにせよ、どちらかのものには間違いあるまい。

 

まあ、とはいえ、きのこ初級にして二種類目の冬虫夏草の発見、及第点ではなかろうかと自画自賛してみる。

 

人生には自画自賛は大いに必要であろう。

 

 

 

八日目の蝉

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改訂版 日本産セミ科図鑑[鳴き声編CD付]

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月白貉