ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn)が、自らの感覚で古き日本を歩きまわって独自の感性で見聞を広めたように、遠く故郷を離れてあてどなき夢想の旅を続けるぼくが、むじなと、そしてラフカディオと一緒に、見たり聞いたり匂ったり触ったりした、ぼくと、むじなと、ラフカディオの見聞録です。

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アカハツ(Lactarius akahatsu)- 松江城マッシュルームマップ -

「初物」という言葉がある。

 

その季節に初めて出来た野菜や果物、あるいはとれた魚などに用いられる言葉で、いわゆる「旬」のものである。

 

今で言えば柿や栗、イチジクや葡萄や梨など、やはり優雅で目立つ果実類があげられがちだが、皆さんご存知、秋といえばきのこも初物の時期であろう。

 

というわけで、今回のハンティングきのこは「アカハツ」である。

 

松江城マッシュルームマップ - アカハツ -

 

ベニタケ科チチタケ属のきのこで、学名を「Lactarius akahatsu」、漢字で書くと「赤初」である。

 

傘の径はだいたい5cmから10cm、色は淡橙黄色あるいは淡橙赤色をしており、その表面には不明瞭な環紋を持つ。また雨などで湿ると粘性を帯びる。大きな特徴としては、ひだを傷つけると分泌される橙色の乳液で、分泌された液体はワイン色を経て青緑色となる。

 

このきのこには酷似した種類が幾つもあり、野にまみれた姿の一見だけでは、同定はなかなか難しい。ひだから分泌される液体の色や、きのこ自体が放つ匂いなどでの確定が必要なきのこである。

 

そして重要なポイントでもある食毒の有無であるが、アカハツは食用としては優秀なきのこだそうで、食感はさほどよくないが味はよいという。バターで炒め潰してオムレツなどに入れるとよいとの情報が文献には記されている。今回見つけたアカハツを食べようと意気込んだが、小さな個体だったのと、きのこ初級の不安から見送ることとあいなった。

 

アカハツの「ハツ」とはまさに「初物」の「初」、「ハツタケ」というきのこは、きのこがこの季節に初めて出だしましたよという印の意味から「初茸」と呼ばれるという。それに「赤」が付いて「赤初」なんてなあ、縁起のいい名前である。

 

島根に来てからずいぶんと「旬」というものを意識するようになった。いや、意識せざるを得なくなったと言う方が正しいであろう。野菜にも果物にも、そして魚にも当然に旬というものがある。でも東京やらの都会になんかに住んでいると、そういう意識が恐ろしいほど薄くなるのである。知識としての旬は存在するのだが、体感としての肌触りとしての旬というものがまったく感じられなくなる。

 

そしてそういうことが、意外と日本全土にはびこりつつあるとぼくは感じている。

 

なんだかオシャレ感覚の旬やらグルメ気取りの旬みたいなものは随分はびこっているが、それが果たして旬であろうか。多くの人間はカレンダーやら時計やらに時間や季節を制御されてしまっていて、自らの感覚で時間や季節を知るということを忘れてしまっているであろう。

 

たとえば空を仰いで、月や太陽を眺めて、草木の茂りに触れて、そして野菜や果物の実りを頼りに生きてこその、旬なのではなかろうか。

 

ぼくは、そういうことをアカハツに言われた気がした。

 

ゆえに来年きみが生える頃には、きみを喰おうぞ。

 

 

 

旬

 
体がよろこぶ! 旬の食材カレンダー (Sanctuary books)

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月白貉