ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn)が、自らの感覚で古き日本を歩きまわって独自の感性で見聞を広めたように、遠く故郷を離れてあてどなき夢想の旅を続けるぼくが、むじなと、そしてラフカディオと一緒に、見たり聞いたり匂ったり触ったりした、ぼくと、むじなと、ラフカディオの見聞録です。

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チシオタケ(Mycena haematopus)- 松江城マッシュルームマップ -

子どもの頃は、いまでは考えられないくらい毎日毎日飽きずによく怪我をした。

 

大人になるといろんな行動の前にまずよく考えてから動き出すのだが、子どもの頃はその考えるという部分が欠け落ちていたりするので、突発的な行動の先に怪我という戒めが待っている。そういうことを繰り返しながら大人になってゆくのかもしれない。

 

転んで足を擦りむいたり、カッターやハサミで手を切ってしまったり、画鋲でケツを貫かれたり、そういった怪我に付き物なのが出血である。

 

転んだりちょっと手を切ったくらいの出血ならすぐに止まるし大したこともないのだが、子どもの頃は大胆な行動の末に劇的な怪我をして、とんでもない出血をすることもある。

 

ぼくはといえば、それほど劇的な出血の経験はない。いちばんは、国旗掲揚のためのポールに意味もなくよじ登って落下し腕を地面に打ち付けた時くらいであろうか。その時はなかなかの出血だったが、ポールによじ登ったことがバレると怒られると思い、校庭の隅にある蛇口の水でゆすいでハンカチで隠し普通に授業を受けていたのだが、担任にバレて「どうしたんだ!?」と言われて保健室に連れてゆかれた。「なんですぐ来ないの!!」と保健室で怒られ、治療を受けた記憶がある。ちなみにその傷跡はいまでも残っているので、なかなかの怪我だったのであろう。

 

小学生の頃に見たいちばんの出血は、家が八百屋を営む友だちの加藤くんが、教室内でつまずいて黒板の角に頭をぶつけた際の出血だった。いまでも鮮明に覚えているが、「血が吹き出す」という言葉はあの光景のためにあるのではないかというほど加藤くんの頭からは血が吹き出していて、子どもゴコロにも加藤くんはもう死んだなと瞬時に思った。あまりの出血に本人は半笑いだったが、顔の青ざめた担任が加藤くんを抱きかかえて、返り血を浴びながら教室を飛び出していくのを、ぼくも含め周囲の生徒が呆然と眺めていた。

 

というわけで、今回のハンティングきのこは「チシオタケ」である。

 

松江城マッシュルームマップ - チシオタケ -

 

ラッシタケ科クヌギタケ属のきのこで、学名を「Mycena haematopus」、漢字で書くと「血潮茸」である。

 

傘の径は1cmから3.5cmほどで釣鐘型をしており、表面は帯褐赤色で放射状の条線がある。また傘の縁にフリンジと呼ばれる鋸歯状のものが見受けられる。なかなか特徴の多いきのこなので、一度覚えたらまず間違うことはないであろう。

 

そしてこのきのこの一番の特徴は、名前の「チシオ」にも語られているように、傘を傷つけると暗赤色の液体が流れだすことである。見た目にも美しいし小型で可愛らしいきのこなので、傘を傷つけるという行為には最初戸惑ったのだが、周辺に転がってる適当な細さの枯れ枝を拾って傘に軽く突き立ててみると、まさに血のような液体が流れだしたのである。

 

その光景は感動的ではあったのだが、少しだけ心が傷んだことは言うまでもない。容姿だけでも十分同定の出来るきのこなので、今後は無闇に傷つけたりはするまいと固く心に誓ったのである。ちなみに思った以上に血液感満載の液体が流れるので、血のヴィジュアルに弱い諸君には当然オススメできない行為である。

 

もっともっと他のきのこからも血のような液体が流れ出せば、路傍のきのこが意味もなく無残に破壊されることもなくなるのではなかろうかと思う今日のこの頃である。

 

人間たちよ、ミミズだってオケラだってアメンボだって、そしてきのこだって、みんなみんな生きているのさ、真っ赤に流れる自分のチシオを改めて見てみたまえよ、無駄に血を流しあう人間たちよ。

 

ちなみに加藤くんは生きていましたよ。

 

 

 

血流がすべて解決する

血流がすべて解決する

 

 

 

 

 

月白貉