ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn)が、自らの感覚で古き日本を歩きまわって独自の感性で見聞を広めたように、遠く故郷を離れてあてどなき夢想の旅を続けるぼくが、むじなと、そしてラフカディオと一緒に、見たり聞いたり匂ったり触ったりした、ぼくと、むじなと、ラフカディオの見聞録です。

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カニノツメ(Linderia bicolumnata)- 松江城マッシュルームマップ -

蟹鍋だったり蟹の味噌汁だったり、蟹がまるごと入っているような料理ってものが、どうもあまり好きにはなれない。

 

確かに出汁もよく出て味も美味しいし見た目も豪華ではある。甲羅を開けたら中に蟹味噌なんか入っていたら、更に高級感も増す。

 

それでもあまり好んでは食べない。

 

以前お友だちから大量の蟹をもらったので、様々な料理にして食べてみたことがある。茹でてそのまま酢で食べたり、味噌汁にしたり、チャーハンにしたり、はたまたトマトクリームパスタにしたり。調理の段階で手やら足やらから蟹肉を出してしまって、チャーハンやパスタにするのであれば、ぼくはまったく問題なく美味しくいただけるのだが、あの手や足や甲羅をバリバリと割りながら食べる丸茹や味噌汁がやっぱりなんとなくテンションが下がる。

 

たぶん食欲よりも、あの硬い甲羅との戦い、いわゆる破壊欲みたいなものが食欲を上回ってしまうんじゃないだろうかと思ったりする。とくに爪なんか、普段の120パーセントくらいの力を出さないと割れやしないでしょ。

 

というわけで、今回のハンティングきのこは「カニノツメ」である。

 

松江城マッシュルームマップ - カニノツメ -

 

アカカゴタケ科カニノツメ属のきのこで、学名を「Linderia bicolumnata」、漢字で書くと、もちろん「蟹爪」である。

 

名前の由来は見ていただくとわかるように、その容姿にある。

 

小さな卵のような幼菌を突き破って、蟹の爪、いわゆる蟹のハサミのような本体が姿を現すこのきのこは柄を持たず、グレバはその爪に挟まれるように付着している濃褐色の液体状のものである。グレバとは胞子を形成する部分のことである。

 

見た目には蟹の爪にのせられた蟹味噌のように見えなくもなく、「あれ、創作懐石料理の先付かな?」と思ってしまうが、じつはこの液体状のグレバはとんでもない悪臭を放っている。ぼくはその情報を知らなかったため周囲の何かが原因で異臭が漂っているのだとばかり思っていたが、このグレバの悪臭によってくる昆虫などを利用して胞子が伝播されるというわけである。

 

食毒はないと言われているが、このグロテスクな容姿に加えて悪臭の漂うきのこを好んで食べようという物好きはあまりいないだろう。臭いの強いものは、例えばクサヤだったり納豆だったりと美味しい場合もあるが、このきのこは、ぼくに関して言えばたぶん無理である。

 

ゲ〜ってなっちゃいます。

 

まあゲテモノ食いに覚えのある猛者は、酒の肴に食してみたらよいのではなかろうかと思う。なんだったら蟹鍋や蟹の味噌汁ばりに、丸のままぶち込んだ料理などにしたら、ぱっと見は蟹の爪であるから。味もじつは案外極上の美味やもしれぬ。

 

まあそんなこんなで今回のカニグルメの話はお開きとさせて頂くが、もし日常生活で、例えば台所などで異臭がすることなどあれば、まずはカニノツメを疑ってみるといいであろう。流しの下の物入れの奥にカニノツメが生えているかもしれないから。

 

 

 

 

 

 

月白貉